独りよがりかもしれませんけど、紆余曲折を経て、おさまるところにおさまったんじゃないかと思っています。いったんバラバラになって、元に戻る。人間にはそういうところがある気がします。

 今、絵本の読み聞かせの活動で、全体を取り仕切ってくれているのはカミさんです。考えてみたら、その活動を一緒にやっている期間のほうが、僕が好き勝手やっていた期間よりもずいぶん長くなった。

 僕が作家になる前は、カミさんは、何をやっても長続きしない旦那のことが、さぞ心配だったと思います。狭いアパートでカミさんが、僕の目につくところに小説の雑誌や本を置いていたのは、「こういう道はどう?」と勧めていたのかもしれません。口では何も言いませんでしたが。

 来年で結婚50年になりますが、振り返ると、結局は妻の手のひらの上で転がされているんですよね。でも、落っこちないように上手に転がるのも、それはそれで難しいんですよ。

――最近では、創作活動や絵本の読み聞かせ以外に、ネットを介しての人生相談も評判になっている。なぜ、若者に支持されるのだろうか。

 東日本大震災以降、ツイッターで悩みが寄せられるようになったんです。すべてに返事をすることはできないけど、ああ、この人は答えを欲しがっているなと思うものには、答えるようにしています。

 長方形の窓の向こうに海が広がっていて、何も見えないけど、海の中にいろんな魚がいるように、いろんな人間がいるんじゃないか。茫洋と広がっているネットという海に向かって、何が返ってくるんだろうと思いながら発信したら、思った以上に反応が多かった。

 昔は世代が違っても、お互いの土俵は何分の1かは重なっていたけど、今はまったく別になってしまった。価値観や常識が大きく違う。それでも、70代後半の僕の言うことを若者が聞いてくれて、時には救われたと言ってくれる。悩みというのは、本質的には変わらないんでしょうね。

――最後に、作家として死ぬまでに書きたいテーマを聞いた。

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