「いわゆる“ドロドロ血”と言われる状態になって血栓ができやすくなり、エコノミークラス症候群を発症するリスクが高まります。血栓は、心筋梗塞やがんを含むあらゆる疾患に多く見られる血管トラブル。血栓が血管に詰まって静脈血栓塞栓症を引き起こせば、即死するケースもあります」

 エコノミークラス症候群は、飛行機の機内に長時間いたり、災害時にクルマの中で過ごしたりした人が発症することで知られる。下半身がむくんで痛みが生じるほか、呼吸困難や失神状態に陥ることもある。最悪の場合、死に至るケースもあるが、それが自宅でもオフィスでも、座りすぎることで起きうるというのだ。

 ふくらはぎだけではない。太ももも、健康状態を維持するうえで注意すべき部位だ。太ももには、人体でもっとも大きい大腿四頭筋という筋肉があり、この筋肉を動かすとエネルギーを消費して代謝が上がりやすい。

「逆に、座りすぎによって大腿四頭筋の活動停止時間が長引くと、摂取した糖を代謝する機能や、脂肪を分解する酵素の活性が低下します。その結果、糖や脂肪がたまり、肥満や糖尿病になりやすくなるんです」(同)

 繰り返しになるが、肥満や糖尿病が危険因子になる心筋梗塞や脳梗塞、がんの発症率が高まる。

■ジム通いでは解消できない

 こうした罹患リスクや死亡リスクは、こまめに立ち上がって動くことでしか解消されない。週に数回のジム通いなどの運動習慣は、ストレス解消や体づくりに役立っても、日々の座りすぎを相殺するには不足だ。岡教授は、運動習慣がある人には自身の健康状態や生活習慣を過信しやすい傾向があり、むしろ座りすぎを解消しにくい、と指摘する。

 具体的な対策を下にまとめた。意識して日常で生かしてほしい。できれば30分に1度、自分を立ち上がらせるために時計やスマホなどのアラームを設定するのも一案だ。

 さまざまな技術革新によって、私たちの生活環境や職場の機械化、自動化は加速するに違いない。日常動作や活動量は減り続け、座っている時間は長くなる一方だろう。だからこそ、意識的に座っている時間を中断するようにしたい。

 岡教授が言う。

「かつては『立って動く生活』だったが、現代は『座って動かない生活』。ほとんどの家電はリモコンで操作でき、掃除もロボットがスイッチひとつでしてくれる。声をかけるだけで家電を操作するAIアシスタントも登場し、リモコン操作や電源を押す動作さえ不要になった。テクノロジーがもたらす便利さと楽しさはあるが、くれぐれも、それに頼りすぎないように」

 人間も動物の一種で、「動くもの」であることを忘れてはいけない。こまめな日常動作を増やすことが健康寿命を延ばすカギ。ここでいったん本誌を置いて、立ち上がろう。(茅島奈緒深)

【座りすぎを防ぐ習慣の一例】
・30分に1度は立ち上がる癖をつける
・テレビのCM時にトイレや、食器洗い、洗濯といった家事をする
・テレビを見ながら屈伸運動、もも上げ、背伸びなどの運動をする
・外出先などで座る時間が長引く場合、座ったままかかとを上下させたり、つま先を天井に向けて脚を上げ下げしたりする

週刊朝日  2018年10月19日号