もはや全盛期の勢いはないが、トレーニングを欠かさないイチローは来季の「現役復帰」を虎視眈々と狙う (c)朝日新聞社
もはや全盛期の勢いはないが、トレーニングを欠かさないイチローは来季の「現役復帰」を虎視眈々と狙う (c)朝日新聞社

 マリナーズのイチローがメジャー18年目のシーズンを終えた。会長付特別補佐という特殊なポストを与えられ、来季の「現役復帰」に向け、トレーニングを欠かさない44歳のストイックさには、頭が下がる思いだ。一方で、日本球界への復帰も待望されており、古巣オリックスの新監督人事にも影響が出ているようだ。

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 この精神力の強さは常人には信じ難いもので、だからこそ、イチローはイチローなのだと思う……。

 彼が、現役でも引退でもない“会長付特別補佐”という特殊なポストを与えられたのは5月3日のこと。その日までの彼の成績は15試合出場で打率2割5厘、9安打。メジャー18年目にして初めて盗塁も本塁打もゼロの状況で、メディアには「若手にチャンスを与えるべき」という論調が目立ち、失礼ながら「解雇はいつ?」とささやかれていたものだ。

 それが、ふたを開けてみれば、チームに同行して若手を指導しながら試合前の練習に参加し、今季の試合には出ないが来季以降の現役復帰の可能性は残されている、というメジャーでも前例のない立場を与えられたのである。

 野球殿堂入りが確実視されている功成り名を遂げた者だからこその特別扱いなのは間違いないが、自分がその立場を与えられたら、と考えれば、居心地の悪さ、モチベーション維持の難しさは想像に難くない。

 あれから約5カ月。マリナーズは9月30日に今季最終戦を終え、誰も経験したことのない会長付特別補佐としてのシーズンを全うしたイチローは、こう語っていた。

「できることは全部やったんで、そこそこ疲れてます」

 イチローは「この状態でもけがなく過ごすこと」を意識し、試合中はずっとトレーニングをし、「1日を終えて帰るときはもうクタクタで、というのが毎日の目標。そこだけをみれば完遂したということになるでしょうね」と語っていた。

 どれだけ鍛えようが、試合に出ないのだから“結果”も出ない。それでも5カ月間、トレーニングをし続けたストイックさ。おまけに、オフに入っても「身体は休ませない。トレーニングをやめることはないです」というのだから恐れ入る。

 それもこれも、来季の「現役復帰」を目指しているから。

 思いは変わらないか?

 と問われると「もちろんです。言うまでもない。それはずっと変わっていないですね」と決然と答えていた。

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イチローの現役へのこだわりが…