「バンドワゴン」も桜井の曲で、叙情味のあるフォーク・ロック調。遠い昔、夏の名残のある頃、二度と会えなくなってしまった“あのこ”への思いを歌っている。トランペットの哀愁が漂う。

「木」はとぼけた味わいのあるYO―KINGの曲。歌詞にある“knock on wood”は、幸運の訪れや悪いことが起きないよう木をたたきながら唱えるおまじない。その一節のメロディーはボブ・ディランの「天国への扉」を思い起こさせるが、全体の曲調、演奏やハーモニカはニール・ヤング風だ。

「バンブー」は桜井がヴォーカルをとる。バンジョー、フィドルを加えたカントリー調。その歌詞は世の中、すべからく“そこそこ”なものだらけと皮肉まじりだ。桜井曰く、“松竹梅”で言えば“竹”にあたることからタイトルを“バンブー”にしたという。

「茫洋」と「一瞬」はともにYO―KINGの曲。前者はカントリー・テイストを織り込んだブギ・ロック。“世の中なんて 何でもありだ 楽しいこと 気持ちいいこと どんどんやればいい”と歌いながら、自身の内面を見つめる冷静な視線も。後者は、夏が終わって大人になった“ぼくら”の遠い昔の甘ずっぱい思い出を歌ったもの。YO―KINGの淡々とした歌唱には説得力があり、しみじみと味わい深い。

 初回限定盤にはDVDがつく。「メロディー」のMVや4曲のライヴ映像に加え、『INNER VOICE』の全曲ぶっつけセッションを収録。YO―KINGと桜井が曲目を解説し、全曲を弾き語りで披露する。バンドとは異なる演奏展開で、興味深い見もの、聴きものだ。「メロディー」の“大詩人のような歌詞でなくて”のところでは、“ジンママンのような歌詞~”と、ボブ・ディランの本名の名字を歌っている。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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