■才能の有無を決めつけてコース分けをしがちな世間

 そして、ここで発動されるのが、「持っているものは更に与えられて豊かになるが、持っていないものは持っているものまでも取り上げられる」というマタイ効果です。たとえば小学校なら、学校対抗の試合に勝つために、才能があると思われる子が集まった特別なコースには当然優秀なコーチが付き、練習も厳しいものになるでしょう。対して、下のコースは、特別なコースに比べてもっと簡単な練習になります。すると、技術的に差は広がっていくのは当然のことです。

 そのため、私は小さい頃から才能の有無を決めつけてコース分けをしてしまうことには反対です。生まれた月は、自分の意思で変えることはできないからです。

 ただ、ここで最初に挙げた「漫画家は早生まれが多い」という事実は、マタイ効果の逆バージョンと言えるのではないでしょうか。

 自他ともに「運動が苦手な人」と分類されてしまうと、そのコンプレックスから「じゃあ室内でできることを」という考えに至るのではないかと思います。ですから、ある程度の年齢になり生まれ月があまり関係なくなってからのコース分けは、あってもいいのではないかと思います。

 私の夫はぜんそくもちで、体育の時間は見学が多かったそうです。そのため、運動に対しては相当大きなコンプレックスを抱いていました。だからこそ、その分、「勉強を頑張ろう」という熱意が生まれたわけです。結果、現役で東大医学部に入ることができました。

 つまりなにが言いたいかというと、「コンプレックスは必ずしも悪い方向に向かわないのではないか」ということです。

 思い返すと、私も子どもの頃は自分と周囲をさまざまな面で比べてばかりいました。思春期は、人と比較するという相対的な価値観が大きくなる時期です。おかげで「自分のここが人より劣っている」と考えてばかりで、持病のうつ病も重なり、コンプレックスの固まりのようでした。

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コンプレックスこそ「力」に