大学入試では「ある地域のチョウが黒くなりはじめた。なぜか」というような問題がでます。ここでは、「チョウは捕食者から逃れるため背景にとけ込む、隠蔽擬態という能力をもつ」という知識と、「工場地帯は排気ガスにより壁が黒くなりやすい」という知識を合わせて、「近くに工場ができた」と予測することができます。知識を「組み合わせる」能力が求められるのです。

 うちの息子はブロックやロボットなど、なにかを組み立てるのが大好きですが、異なる種類のおもちゃを組み合わせて、さまざまな色や形が混ざった不思議なものをつくりだすことがあります。ロボットに小さなぬいぐるみや新幹線、車を一緒にして遊んでいることもあります。これこそ「一つ遊んだら一つずつ片づける」方法では、決して作れない世界観であり、「このおもちゃはこうして遊ぶもの」という説明書の概念にしばられない、子どもだからもてる「創造性」ではないでしょうか。

■発想を膨らませるのに適した時期は限られている

 床に散らばった何種類のおもちゃを片づけるときに、やれやれとため息が出ることもしばしばです。けれど、脳が画一性に縛られず、試行錯誤して組み合わせを考え、発想を膨らませるのに適した時期は限られているでしょう。対して、しっかり片づけをする機会なんて大人になってから後も山のようにあります。

 たとえば事務作業をするようなときには、片づけのクオリティーも重要になってきます。実験だって、どこに何の薬品が何mg入っているのかを管理しておかなくては、正確な結果を得られません。

 ただ、子どもの時期は急速に脳が発達し、吸収していく時期です。そのときに、あえて「創造力」や「集中力」を妨害してまで「片付ける力」を伸ばす必要があるのかは疑問です。

 前に書いたように片づけは「作業」なので、大人になってからいくらでも身につけられる技術ではないでしょうか。書店にいくと、「整理整頓」のコツの本はかなりたくさん置いてあります。しかし、大人になってから「創造力を伸ばす本」という本はそこまでなく、専門的な難しい話になってきます。

 そう考えると、あえて子どもの頃に「片づける力」を育てるより、大人になってから整理整頓の本を読めばいいのです。そして「引き出しの中は箱で区切るとよい」「失くしそうなモノは定位置を決める」といったコツを知ってから整理するほうが、合理的ではないでしょうか。

◯杉山奈津子(すぎやま・なつこ)1982年、静岡県生まれ。東京大学薬学部卒業後、うつによりしばらく実家で休養。厚生労働省管轄医療財団勤務を経て、現在、講演・執筆など医療の啓発活動に努める。1児の母。著書に『偏差値29から東大に合格した私の超独学勉強法』『偏差値29でも東大に合格できた! 「捨てる」記憶術』『「うつ」と上手につきあう本 少しずつ、ゆっくりと元気になるヒント』など

著者プロフィールを見る
杉山奈津子

杉山奈津子

杉山奈津子(すぎやま・なつこ) 1982年、静岡県生まれ。東京大学薬学部卒業後、うつによりしばらく実家で休養。厚生労働省管轄医療財団勤務を経て、現在、講演・執筆など医療の啓発活動に努める。1児の母。著書に『偏差値29から東大に合格した私の超独学勉強法』『偏差値29でも東大に合格できた! 「捨てる」記憶術』『「うつ」と上手につきあう本 少しずつ、ゆっくりと元気になるヒント』など。ツイッターのアカウントは@suginat

杉山奈津子の記事一覧はこちら