ポール・マッカートニーの新作アルバムは“つまみ聴き”禁止!? (3/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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ポール・マッカートニーの新作アルバムは“つまみ聴き”禁止!?

連載「知新音故」

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ポップで親しみやすいメロディーが満載の新作を出したポール・マッカートニー

ポップで親しみやすいメロディーが満載の新作を出したポール・マッカートニー

ポール・マッカートニーの新作『エジプト・ステーション』(キャピトル/ユニバーサル UICC-10040)にはボーナス・トラック2曲も収録。2枚組LPは21日に発売

ポール・マッカートニーの新作『エジプト・ステーション』(キャピトル/ユニバーサル UICC-10040)にはボーナス・トラック2曲も収録。2枚組LPは21日に発売

 暇な時間がたくさんあった頃など昔のあれこれを思い出しながら“今は君がいて幸せ”と歌った「ハッピー・ウィズ・ユー」。原詩の冒頭に“I used to get stoned”とあるのは“ハイになっていた”“ラリってた”という意味だが、対訳には“よくマリファナを吸っていた”とあってびっくり。

 ギターへの愛着を歌った「コンフィダンテ」、現在の妻ナンシーとの出会いの頃に書いたという「ハンド・イン・ハンド」、幼い頃に父に言われた“今やれ!”という言葉を思い出して書いた「ドゥ・イット・ナウ」。いずれもそれぞれの音楽展開が面白い。ビートルズ時代の実験的な要素が織り込まれている。「バック・イン・ブラジルでは、ブラジリアン・リズムなどに加え、なぜか“ICHIBAN”というコーラスが繰り返される。

 社会問題への気配りも忘れていない。

 T・レックス風のブギ・ロックの「フー・ケアズ」は、“いじめ”をはじめ、様々な悩みを抱える若者への助言の曲だという。

「ピープル・ウォント・ピース」は、イスラエル公演の際、パレスチナを訪れた体験をもとに世界の平和を願って書いた。ビートルズ風の演奏展開で、エンディングではジョン・レノンの「平和を我等に」を思い起こさせる。

「ディスパイト・リピーティッド・ウォーニングス」は、ピアノ、ギターをバックにしたバラードから、ロック・ナンバーへと変化する。ポールお得意の壮大な組曲形式だ。周囲の意見に耳を貸さない“船長”に、あの大統領や独裁的な指導者を重ね合わせている。

 アルバムを締めくくるのは3部構成の「ハント・ユー・ダウン/ネイキッド/C-リンク」。3部の中でも、ポールが延々とブルース・ギターを奏でる「C-リンク」に、彼の音楽に対する情熱と愛着を感じる。

 全体を通じ、歌詞の明快さが印象深い。演奏・サウンド面では、ビートルズ中期以降に実践した手法を改めて吟味し、今日的なエッセンスを加味している。オールド・ファンには懐かしく、新しい若いファンには刺激的なはずだ。

 ポールは今年、76歳になった。今も第一線で音楽を続ける原動力は何か。

“大好きだから! それだけさ。アンプのスイッチをONにして、ギターを手にし、シールドをさし、大きな音で演奏する。それを今も続けていられることが、どれほどの幸せか。そのスリルといったら! どれだけやり続けても、スリルが消えることは決してないよ”(音楽評論家・小倉エージ)


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小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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