ラシントンパレス。最上階に円盤形の「スカイジム」があった=1989年、東京都新宿区新宿2丁目 (c)朝日新聞社
ラシントンパレス。最上階に円盤形の「スカイジム」があった=1989年、東京都新宿区新宿2丁目 (c)朝日新聞社
新宿2丁目のゲイバーのカウンターには周辺を案内するチラシがあった (c)朝日新聞社
新宿2丁目のゲイバーのカウンターには周辺を案内するチラシがあった (c)朝日新聞社
性的少数者が集まる東京・新宿2丁目 (c)朝日新聞社
性的少数者が集まる東京・新宿2丁目 (c)朝日新聞社
伊藤文学さん (c)朝日新聞社
伊藤文学さん (c)朝日新聞社

 社会風俗・民俗、放浪芸に造詣が深い、朝日新聞編集委員の小泉信一が、正統な歴史書に出てこない昭和史を大衆の視点からひもとく「裏昭和史探検」。今回は「ハッテンバ」。かつて、男性の同性愛者の“聖地”として東京・新宿2丁目にひっそり存在した不思議なビルの謎を追った。

【写真】“聖地”新宿2丁目とは…

*  *  *

 東京・新宿2丁目。同性愛者たちが多く集まることで知られる街に、奇抜な形をした緑色っぽい建物があった。四谷と新宿を通る「新宿通り」に面し、最上階の10階が円盤形になっていた。「ラシントンパレス」である。「羅府(らふ)会館」とも呼ばれ、昭和40年代にはあったという。

 読者の多くが「ワシントンパレスの間違いじゃないか」と思うだろう。でも、「ラシントンパレス」。羅府はロサンゼルスの意味。ならば「ロサンゼルス会館」とすればいいところだが……。全くもって意味不明の建物だった。

 1階から9階までは事務所や飲食店などが入る雑居ビル。ホテルもあった。1階には、筆者もよく食べに行っていたジンギスカン店もあったが、やはり円盤形をした最上階が気になって仕方がない。あそこは一体何なのだろう。そう思い、一度、エレベーターに乗って10階まで上がったことがあった。

「スカイジム」という施設だった。英語で「SKY GYM」。何となく入りにくい雰囲気だ。足を一歩も踏み入れることができず、そのままエレベーターに乗って階下におりてしまった。

 数日後、男性同性愛誌「薔薇族」編集長(当時)の伊藤文学さん(86)が教えてくれた。

「あそこはね、ハッテンバなんですよ」

 漢字で「発展場」。「発展する場所」という意味だが、そもそも「発展」とは何なのか。広辞苑を引くとこんな説明が並んでいた。

(1)のびひろがること。展開(2)さかえゆくこと(3)手広く活動すること。特に異性との交際についていう──。

「ハッテンバ」とは、(3)に由来するもので、異性ではなく男性同士の出会いを発展させる場所という意味がある。

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