音楽があることは平和なことだと思っているし、それが日本のすばらしさでしょう。私が伝えたいのは、そういうふうに、音楽が楽しめる環境を維持するためにはどうしたらいいのかということ。子や孫の世代も、その先のことも考えて。政治運動とは違うと思っています。

――父は海軍大佐。兄たちも陸軍や海軍に所属するなど、軍人の家系に生まれた。母親からは「高校を卒業したら結婚しなさい。それが女性の一番の幸せなのだから」と言い聞かされて育ったという。

 戦争が終わって、価値観の大転換がやってきた。私たちは日本女性として、はじめて古い価値観から解放された世代なんです。それだけに、見習うべきロールモデルが何もなくて、憧れの職業があっても、どうやってなったらいいんだか皆目わからない。ただただできることをしただけです。

 大好きな音楽を聴き続けて、何かのきっかけで書いたりしゃべったりしたことが人の目に留まって。「じゃあ、これをやってみませんか?」っていうオファーが来る。断ったらそこで道が途絶えてしまうから「何でもやらせてください!」って。そうやってがむしゃらにやってきて、ふと気がついたら58年たっていました(笑)。

 エルヴィス・プレスリーの日本版アルバムのライナーノートを書き続けて、いつか会いたい!と願い続けて、それがかなったのは15年後です。ビートルズの来日にも立ち会うことができた。私は本当に幸運だったと思っていますし、そのおかげで、自分の実力以上のことができたんだと思っています。

 若いときから、やれることはなんでもやってきた。だから「やり残したことはない」という。だが、「やらねばならないこと」は、別だ、とも。

 昔、アマゾンの熱帯雨林へ取材に行きませんか?ってお話をいただいたとき、私は子育ての真っ最中でした。ものすごく心引かれたけれど、子育ての大事な時期を犠牲にはできなかった。

 それ以来、「今は無理だけど、いつかは!」っていうことを「夢貯金」と呼ぶことにしたの。それをどんどん書き出して、書斎に貼っておく。もうだいぶん、その貯金も崩しちゃいましたけど(笑)。それに環境運動は「やり残したこと」じゃなくて「やらねばならないこと」。死ぬまで、続けていかないと。

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