路上で倒れる女性と見下ろす男。それは私がその数カ月前に見た光景と、全く同じだった。飲み会で、女だけが、昏睡する。

 先日、あのときの親友と同じ道を歩き、あの交差点で、ほぼ同時に私たちは言った。「あのとき……」。意識のない女性を病院に連れていこうともしない男たちを前に、私たちは何もしなかった。デートレイプドラッグという言葉も知らなかったとはいえ、あまりに認識が鈍かった。

 1年前の5月、伊藤詩織さんが声をあげたときも、思い出した。意識を失う詩織さんをずるずると男が引きずる姿を見ても、誰も何も男を咎めることなく、そのまま誰もが「通りすがりの人」になった。それは5年前の私なのだと思った。そしてそのような無関心がどれほど、詩織さんや、性暴力被害者を絶望させたことだろう。

 ふだんからストレッチしていないと身体は急に動かない。同じように私たちも、身体ががちがちに鈍くなってしまっているのかもしれない。性に、暴力に。

週刊朝日  2018年9月21日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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