水分摂取療法と水泳を積極的に続けたところ、太田さんは12月ごろからめまいが起きなくなったという。さらに、聴力や耳のつまり感も改善し、13年2月の聴力検査では、正常値の20に戻ったという。

「進行性の病気であるメニエール病は、いかにいい聴力を保つかが重要です。この治療法で約3割の患者さんが聴力を上げ、約7割が聴力を保つという結果が出ています。治療法には、穴を開け水分を出す内リンパ嚢開放術という手術もありますが、まずは水分摂取療法などの保存療法から試してみることをすすめています」(同)

■治療法が複数ある場合は慎重に検討を

 めまいを起こす病気の治療法はさまざまで、医師により考えが異なる部分もある。一般的な治療法とその選択について、帝京大学溝口病院耳鼻咽喉科科長の室伏利久医師に聞いた。

 めまいを症状とする病気は、実に数多くあります。問診では、めまいの性質、持続時間、誘因、単発または反復して起きているかなどを確認します。からだのしびれなどの神経症状がないかなども聞き、診断していきます。

 良性発作性頭位めまい症は、理学療法でほとんどが改善します。かんたんな動作に見えますが、自分でするのではなく、医師に実施してもらいましょう。頸椎に障害などがある人は注意が必要ですし、治療中に耳石が動き、めまいが誘発される危険性もあるからです。

 メニエール病の治療は、内耳の機能を温存する手術として内リンパ嚢開放術を選択することもあります。しかしこれは聴力の改善ではなく、あくまでめまいの改善が目的です。一時的に改善し、手術の1~2年後に再発する可能性もあります。 薬物療法では、三半規管の機能を抑制してめまいを起こさないようにする、ゲンタマイシン注入療法もあります。約90%の確率でめまいは改善しますが、副作用として聴力が悪くなるリスクがあります。近年では、水分を摂ることで利尿させる水分摂取療法も注目されています。

 わたしは、めまいの発作回数や年齢、患者さんが何を望むかなどにより治療法を使い分けています。手術は60 代までの患者さんに実施し、70 代以降では原則として薬物療法を選択します。生活習慣を改善しつつ、手術をするか否か半年ほどようすを見てもいいでしょう。

 メニエール病と症状が似ている病気に、「片頭痛性めまい」があります。メニエール病との違いは、片頭痛とめまいが同時に起こることです。治療は、片頭痛の発作予防の薬を使います。

 また、めまいや手足のしびれなどの症状が起こる場合は、一過性脳虚血発作も疑われます。これは脳梗塞の前触れであることも多く、注意が必要です。

 めまいに悩んだら、めまい外来などの専門機関を訪ねるのがおすすめです。日本めまい平衡医学会が認定している「めまい相談医」も医師選びの目安になるでしょう。

※『「よく聞こえない」ときの耳の本』『新「名医」の最新治療2014』から。所属は当時