今回の『HORO 2018 SPECIAL LIVE』では、鈴木をバンド・マスターとし、編曲を委ねた。メンバーは小原礼(ベース)、屋敷豪太(ドラムス)、Dr.kyOn(キーボード)のほか、新たに斎藤有太(キーボード)、紅一点のAisa(コーラス)を起用。

 その結果、演奏やサウンドはオリジナル盤とは変化した。「ゆうがたラブ」や「ふうらい坊」などには、リトル・フィート的なファンキーなロック色が加味されている。

 小坂は「ほうろう」では、コブシ交じりの力強い歌声を聴かせる。「機関車」では自身の足跡を重ね合わせて人生模様を浮かび上がらせ、「ボン・ボヤージ波止場」では、彼が好きだという港町の情景や港からの旅立ちの追憶を込めた。「ゆうがたラブ」ではゴスペル・テイストを織り込んだワイルドなシャウトも披露。「しらけちまうぜ」では、歌謡曲テイストを強調するように演歌のような節回しも聴かせる。

「流星都市」では洗練されたAORの深い味わいを醸し出し、「つるべ糸」では、深まる秋の季節感に重なる主人公の心情を巧みに描き出している。

 小坂の歌唱からは、R&B/ソウルへの傾倒と同時に、日本的な人情味、昭和の歌謡曲への愛着もくみ取れる。それらを混在させ、心の叫びとしてのソウルを表現してみせた。闘病を経て、ステージに立って歌える喜びを実感している様子がひしひしと伝わってくる。軽妙なMCからは誠実で律義な人柄がうかがえ、心が和む。

『HORO 2018 SPECIAL LIVE』は、人間味あふれるヴォーカリスト小坂忠が全身全霊でつくった新たな金字塔だ。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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