大センセイ、ちっともちゃんとしていない。なのに、一応社会的には(変わった人だとは言われるものの)、「ちゃんとした大人」として通用している。

 謎は深まるばかりだが、困った時には三省堂のシンカイさんに聞くのが一番。毎度のことながら、目からウロコが落ちるような、鮮やかな語釈である。

【ちゃんと】
(2)(世間的にも)しっかりしていて後ろ指を指されることが無いことを表す。
(新明解国語辞典・第四版)

 わが意を得たり。まさに大センセイ、昭和君が将来、世間様から後ろ指を指されるような人間にならないために、「ちゃんと」を連発していたのだ。裏返して言えば、世間様さえ見ていなければ、どんなことをしていたって後ろ指を指されることはない。たとえ、妻太郎がディズニーランドで買ってきたミッキーマウス柄のパンツ一丁という姿で、この原稿を書いていたとしても!

 だが……。

 昭和君には、一風変わった趣味があるのだ。長靴が大好きで、晴天でも長靴を履きたがるのである。

 大センセイ、ちゃんとしろコールの一方で、彼には個性や独創性を大切に生きてほしいと願っているのだが、こんな些細なことでさえ、「世間様と違っていい」と言ってやることには、一抹の迷いがある。

 ちゃんとしてるのって、実は、楽な生き方なのかもしれないな。

週刊朝日  2018年9月14日号

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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