東レ経営研究所主任研究員の渥美由喜(なおき)さん(50)も、ダブルケア経験者。2児の父で、育児休暇を2度取得して妻をサポートした。2人目の子が生まれたとき、父の介護が必要に。その後、子どもが難病であることもわかった。

「育児、介護、看護と三つも重なり、何でだろう?と思い悩み、不満がたまった。妻とはかなりひどいけんかもしました。その不満を、ルールを決めてお互いにフェアに吐き出すようにしました。心のデトックス(解毒・毒だし)をしてつらい時期を乗り越えられたことで、夫婦関係が深くなりました」(渥美さん)

 対話で気をつけたことは(1)相手に否定的な発言をしない(2)発言1回ごとに一つの話題に絞り、交代で話す(3)家族でも子でも中立的なレフェリーを置く。判断したり裁いたりするのでなく、第三者として言いすぎを抑える役をしてもらう。

結婚までは別々の人生を歩んでおり、それぞれ知らないことも多いはず。お互いの故郷や昔通った学校などを二人で訪れると、過去を振り返って、新鮮さを取り戻せる。また、人生が残り1カ月としたら何がしたいかをお互い書き出し、どう支えられるかを話し合う。そこから、今の生活の見直しを考えてみてはどうでしょうか」(同)

 50代前半は会社員の年収のピーク期。男性の50~54歳の欄をみると、給与所得者の平均給与は50~54歳が661万円と最も高い。50代後半になれば役職定年もあり、給与が下がる。定年延長で働く期間は延びる一方、金銭面では働く意欲が落ちる転機だ。

 女性の50代は体調の転機。更年期障害等による通院者率は50代が高い。親の介護もやってくる。介護離職者のうち8割が女性で、年代別にみると、55~59歳が約23%と最も多い。

 60代は定年期。夫の在職時に「亭主元気で留守がいい」を実感できた妻は、元気な夫が常に家にいる暮らしの変化を味わう。夫は「毎日が日曜日」とならないよう、新たな居場所を探したい。妻にべったり頼り切る「ぬれ落ち葉」や、自宅でも命令口調で指示する「家でも上司」となれば、夫婦寿命を縮めてしまう。

 リクルートグループのブライダル総研がまとめた「夫婦関係調査2017」は、ともに歩んできた二人の大きなすれ違いを映し出す。夫婦の満足状況を年代別にみると、夫側は60代が最も満足している一方で、妻側は60代が最低だった。

「何か出来事があるごとに夫婦でよく話し合い、お互いの関係をメンテナンスするのが大切です。それをしないまま夫が定年退職すると、問題が表面化しやすい。夫のリタイアで妻の家事量は増えたのに、夫側からケアがない。だから、『夫源病』になります。昼食は夫が作るなど、まずは家事の分担を考えてはどうでしょうか」(立木さん)

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