ヴォーカルも、ロックに特徴的な“シャウト”でなく、独特のハーモニーによる重厚なコーラスを特徴としていた。オリジナル曲の質の高さ、フォークやカントリーなどの伝統音楽、R&B/ソウルやゴスペルなどの要素を巧みに織り込んだ編曲の妙も際立っていた。歌も演奏も流行とかけ離れていたが、それこそ彼らが意図したものだった。

 先にも触れた1曲目は、ディランとマニュエルの共作「怒りの涙」。親元を離れる娘からの“冷たい仕打ち”を嘆き、怒る父親の思いを描いた。伝統的な価値観への批判、体制への“反抗”を声高に叫ぶ社会に疑問を呈する内容で、アルバム全体のテーマを象徴する曲だった。

 ロビーの憧れの地だったアメリカ南部への旅の体験を踏まえて書いた「ザ・ウェイト」。敬虔な聖歌のようなディラン作の「アイ・シャル・ビー・リリースト」。こうした代表曲以外の収録曲も粒ぞろい。唯一のカヴァー曲「ロング・ブラック・ベール」はR&B風に仕上げ、独自性を発揮していた。

 そんな名作の“50周年記念エディション”は、著名なエンジニアのボブ・クリアマウンテンがプロデュース。ミックスをかなりいじっている。

「怒りの涙」では中央に位置していたドラムスが左トラックに移動し、左トラックにあったホーンは、中央奥に。「トゥ・キングダム・カム」では、右トラックにあったドラムスが中央へ移動……というように、ほとんどの曲で楽器の位置が改められ、コーラスにも変化がみられる。加えて、音像の鮮明さが印象深い。

 ミックスを改めた理由は明らかにされていないが、単にオリジナル盤との差別化を図るだけではなかったようだ。

 オリジナル盤では4トラックの録音機材を使用し、限られたトラックに演奏を詰め込むようにして録音されていた。今回のニュー・ミックスでは開放感を持たせ、音像も鮮明で、ピアノやオルガンなどキーボードをはじめ演奏の細部が際立って聞こえる。ヴォーカルとコーラスのアンサンブルのミックスも工夫が凝らされるなど、新たな発見がある。

 ロビー・ロバートソンは、今の音の方が“より豊かで立体的に聞こえる。(エンジニアの)ボブは僕たちの音楽にとても忠実だった”と語っている。

 発売は、通常盤とスーパー・デラックス・エディションの2種。後者には、CDと同内容のブルーレイ・ディスク以外に、45回転2枚組のアナログ盤、デビュー・シングルの7インチ盤が同封されている。アナログ盤には激しい興奮を覚える。言うまでもなく、長年のザ・バンド・ファンにとっては必聴のアルバムだ。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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