■なぜ年をとると聞こえが悪くなるのか

 耳も、目やからだのほかの器官と同じように、加齢にともないその働きは衰えます。年をとれば聞こえにくくなることは、誰にでも起こる自然なことなのです。では、加齢により、どのようにして聞こえが悪くなるのでしょうか。

 内耳の蝸牛のなかには、音を感じ取るセンサーの役割を果たす有毛細胞があります。有毛細胞は、加齢により数が減ったり、壊れたりし、そのせいで音を感じ取る力が低下します。

 また、蝸牛から脳に電気信号を伝える神経細胞の数も、加齢により減少し、神経の働きそのものも悪くなるため、音の情報が正確に伝わらず、言葉がはっきり聞き取れなくなります。さらに、脳の働きも衰え、電気信号を音や言葉として理解する能力が低下します。このように、いくつもの障害や機能の低下が重なり、聞こえが悪くなるのです。

■聞こえが悪い人ほど大きな音に敏感なことも

 加齢による難聴は、内耳や神経の障害による感音難聴です。感音難聴には、内耳に原因があるものと、神経や脳に原因があるものがあり、多くは両方が混在していますが、内耳性の難聴では、「ちょうどよく聞こえる音の幅が狭い」という特徴もあります。

 正常な聴力では、小さな音から大きな音まで聞こえ、「うるさい」と感じても、がまんできる音量にある程度の幅があります。しかし、内耳性の難聴では、小さな音は聞こえず、大きな音になれば聞こえますが、「うるさい」と感じたら、それ以上はがまんできないほど苦痛で、耳が痛くなることもあります。そのため、聞こえが悪い人ほど大きな音には敏感なこともあります。

 加齢による聞こえの悪さは誰にでも起こることですが、聞こえが悪くなる時期や聞こえの程度には個人差が大きいものです。50歳代で聞こえが悪くなる人もいれば、80歳を過ぎてもよく聞こえる人もいます。一般的には、65歳を過ぎるころから聞こえの悪い人が急激に増加する傾向があります。また、年齢ごとの平均聴力をみると、低い音の聞こえは、どの年齢でもそれほど大きな差はありませんが、高い音の聞こえは年齢が上がるほど低下していきます。

◯監修
筑波大学病院病院長/日本聴覚医学会理事長
原 晃医師

(文/出村真理子)

※週刊朝日ムック『「よく聞こえない」ときの耳の本』から