30代以降、加齢とともに高音域からゆっくりと低下する(※写真はイメージ)
30代以降、加齢とともに高音域からゆっくりと低下する(※写真はイメージ)

「耳が遠くなるのは、高齢になってから」「補聴器は眼鏡みたいに、つければすぐに聞こえる」といった認識の人は多いのではないでしょうか。実はそれ、誤解です。週刊朝日ムック『「よく聞こえない」ときの耳の本』では、聞こえに関する誤解に対し、岩手医科大学病院耳鼻咽喉科教授の佐藤宏昭医師に解説してもらいました。その一部をお届けします。

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【誤解】 聴力は60代以降に低下する
【正解】 30代からゆっくり低下していきます

 聴力は60代以降に急に低下すると思っている人も多いと思います。実際には30代以降、加齢とともに高音域からゆっくりと低下していきます。しかし、日常生活の中の音や会話を構成する音の大部分は聞こえているため、60代になるまでとくに聞こえの悪さを意識することはないかもしれません。

 60代以降、聴力低下が進行すると、会話の中でも高音で音も小さい無声子音(サ行やハ行など)など一部聞こえない音が顕著になってきます。そうすると聞き分けることが難しい言葉が増え、聞き間違いが起きてきます。70歳を超えるとほとんどの音域の聴力が「軽度難聴」~「中等度難聴」レベルまで低下する人が多くなります。中等度難聴になると聞き返しなども多くなり、日常生活に不便を感じるため、補聴器を検討してもいいでしょう。

 いずれにしても30代以降、加齢とともに聴力は年1~2デシベル程度落ちていくため、若いうちから少しでも聴力の低下を予防することが加齢性難聴の最善の対策といわれています。

【誤解】 加齢性難聴は治る病気
【正解】 100%の状態には治りません

 加齢性難聴は、加齢以外に特別な要因がなく、音を感じる部位が障害される感音難聴です。一般に左右同じように聴力が低下し、低音域は比較的聞き取れるけれど、高音域が聞き取りにくくなるのが特徴です。そして一度低下した聴力は取り戻すことができません。

 発症には複数の遺伝的要因と環境要因が関与しているとされていますが、加齢によって蝸牛(かぎゅう)の中の音を感知する役割をもつ有毛細胞がダメージを受け、その数が減少したり、聴毛が抜け落ちたりすることにより聞こえが悪くなります。聴力の低下の度合いには個人差が大きく、70~80代でも比較的良好な聴力を保つ人もいる一方、聞こえの低下により家族や友人との会話がうまくいかなくなったり、必要な音が聞こえず危険を察知する認知能力が低下したりするなど生活に支障をきたす人も多くいます。

 加齢性難聴を百パーセント治す治療法はいまのところありませんが、耳にやさしい生活を心がけ、少しでも聞こえがおかしいな、と感じたら早期に耳鼻咽喉科を受診するなど、早期発見・早期治療でその進行を遅らせることは可能です。

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補聴器は眼鏡店で買う?