「日本酒なら一晩で一升をカラにするほど。酒が強いので、東京の夜の街にも、飲みに行ったものです。行きつけの銀座の高級クラブの店には親しくしていた女性がいてね。鳥取県の米子市出身の女性だからフィーリングが合ったんじゃないかな。マスコミで書かれたこともあった。懲りて、お酒の席には6年前に総裁選に立候補したころからパタッと行かなくなったね」(後援者の一人)

 石破氏が自民党内の票をまとめられない一つの要因に、離党した過去があることがあげられる。93年に政治改革法案問題で自民党から役職停止処分を受けた末、離党。新生党、新進党と渡り歩き、97年に自民党に復党した。

 報道によれば、笹川陽平日本財団会長の別荘に8月15日、安倍首相、森喜朗、小泉純一郎両元首相、麻生太郎副総理兼財務相らが集まったとき、自民党の権力闘争史が話題となり、麻生氏が石破氏の離党について、「そういう苦しいときこそ、人間性がわかるんですよ」と話したという。

 石破氏の元秘書だった中尾享元鳥取県議は離党についてこう話す。

「石破さんはたとえ相手が権力者であっても、自分が正しいと思うことを貫いてきた数少ない政治家なんです。まじめで正直な生き方をしてきた。だから、鳥取県民は支持している」

 父親の二朗氏の八頭町の生家を訪ねた。家の中の床の間には法然上人の教えの書が飾られていた。

「月影のいたらぬ里はなけれども ながむる人のこころにぞすむ」(月の光の届かない里はないけれども、月を眺める人の心の中にこそ、月は存在しているという意味)

 小泉内閣で防衛庁長官に就任した当時の石破氏の写真も飾られていた。

 近所の男性がこのときの思い出をこう振り返った。

「石破さんが防衛庁長官になったとき、町は大喜びで、集会所では人々が集まって、酒を飲み、就任のお祝いをしました」

 現職首相が圧倒的に優位に立つ中、石破氏は勝機を見いだせるのだろうか。

「地方票は石破さんもそこそこ取るだろうが、国会議員票は安倍さんが圧勝だろう。反安倍を鮮明にしていた山崎拓氏が領袖の石原派まで安倍支持を打ち出している。モリカケ疑惑を批判していた小泉元首相も安倍さんと仲良くゴルフしているので、進次郎氏の支援は難しいのでは……。石破氏は党内で孤立している」(自民党の中堅議員)

 石破氏の形勢不利を前出の片山氏はこう分析する。

「石破さんが出てよかったと思いますよ。安倍さんの3選に対して、誰も異論を唱えなかったり、対抗馬が出なかったら自民党としては無様ですよね。森友・加計問題などで国民の不信を買っても皆、安倍さんを信任するんですかということです。それに対し、石破さんが『正直と公正』を掲げ、総裁選に臨むというのはわかりやすいと思います」

石破茂の「日本創生」』(河出書房新社)の著作がある作家の大下英治氏はむしろ、来年に注目する。

「安倍さんが今回の総裁選で勝っても来春にある統一地方選、夏の参院選で自民党が惨敗するようなことがあれば、政局になり、安倍首相が退陣し、再び総裁選が行われる可能性も出てくる。そうなれば、石破さんにも勝機はあると思う」

(本誌・上田耕司)

週刊朝日  2018年9月7日号

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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