【文豪の湯宿】「この部屋に籠城する」山岡荘八が『徳川家康』執筆を決意した宿 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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【文豪の湯宿】「この部屋に籠城する」山岡荘八が『徳川家康』執筆を決意した宿

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鈴木裕也週刊朝日
荘八が愛した「龍胆の間」。壁にかかる直筆の色紙には「人はみないのちの大樹の枝葉なり」と書かれている

荘八が愛した「龍胆の間」。壁にかかる直筆の色紙には「人はみないのちの大樹の枝葉なり」と書かれている

荘八の師匠でもある劇作家・長谷川伸らとともに贈った緞帳

荘八の師匠でもある劇作家・長谷川伸らとともに贈った緞帳

栃木県・塩原温泉郷福渡温泉 和泉屋旅館

栃木県・塩原温泉郷福渡温泉 和泉屋旅館

露天風呂

露天風呂

 文豪たちの作品に登場する温泉宿を訪ねる連載「文豪の湯宿」。今回は「山岡荘八」の「和泉屋旅館」(栃木県・塩原温泉郷福渡温泉)だ。

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*  *  *
 山岡荘八と和泉屋旅館の先代主人・泉漾太郎(ようたろう)は“義兄弟”の契りを交わした間柄にある。きっかけは昭和15年秋、執筆のために宿泊していた際の“賭け”だった。

 宿主催の兵隊慰労会を翌日に控え、先代は講談師の知友・五代目宝井馬琴に演芸を依頼していたのだが、予定時間になっても来ない。その日、馬琴が上野の名人会に出演していることと、列車の殺人的な混雑を知っている荘八は「絶対に来ない。いや来られない」と主張。それでも「絶対に来る」と言い張る先代に、荘八は「もし午前1時までに来たら、馬琴に弟の礼をとる」と言ってしまった。

 馬琴は木炭車で宿にたどり着く。零時半だった。荘八の負けだ。3人は義兄弟の契りを交わすことになった。

 昭和25年の年頭には、お気に入りの「龍胆(りんどう)の間」で荘八が先代に向かって宣言する。

「俺は徳川家康を書くことに決めて、この部屋に籠城する」

 平和になれば人は富み、国は栄えると考え、300年の平和を築いた家康を描くことを、荘八は決意したのだ。大著『徳川家康』が完結するのは、その17年後のことである。(文/本誌・鈴木裕也)

■和泉屋旅館(いずみやりょかん)
栃木県那須塩原市塩原190-3

週刊朝日  2018年8月31日号


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