アルツハイマー病の患者さんは脳の海馬にタンパク質の一種(アミロイドβ)が沈着し神経細胞が変化します。これが中核症状を引き起こすと考えられています。

 ところが、アロマテラピーによる匂いの刺激は直接、海馬のある大脳辺縁系に伝えられ、その刺激が海馬で神経細胞を再生させることにプラスに働くのだと見られているのです。

 確かに、匂いは脳に直接的に働きかけているように思いますね。匂いから記憶がよみがえるということがあります。これは、大脳にある嗅覚野に匂いの刺激が伝わると、記憶をつかさどる海馬にもその刺激が届いて、記憶が想起されるのだそうです。

 アルツハイマー病の患者さんでは、物忘れなどの症状が出てくる前に、嗅覚の衰えに気づくことがあるといいます。ということは、逆に匂いによって脳を刺激して、嗅覚を衰えさせないようにすれば、認知症の予防につながるのではないでしょうか。

 また、五感を刺激することは生命力を向上させることになります。さらに心地よい匂いで睡眠の質が高まれば、以前述べたように(8月3日号)認知症の予防にプラスです。私もアロマテラピーで脳を刺激してみたくなりました。

週刊朝日  2018年8月31日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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