『水中翼船炎上中』は5月に発売された穂村弘の17年ぶりの歌集。章ごとに「現在」「子供時代」「母の死」など時代を追って編まれ、例えばこんな一首が。「図書室の床をひかりの赤ちゃんがちろちろ這っている登校日」

 とにかくきれいな本だ。箱入り、表紙が素晴らしく、紙がよい。その分、価格もお安くはない。それなのに2刷り。本を愛するひとりとして、とてもうれしい。暑すぎる夏の、静かな清涼剤。

 夏休みの締めくくりに『小屋を燃す』はどうだろう。南木作品は心がきれいになるからいつでもオススメなのだが、きれいでナイーブな心とセットの著者の真面目さが、休みモードから現実モードへの橋渡しになると思うのだ。

 畦道を早足で歩いて通勤し、体幹を鍛えては登山をしていることは知っていたが、本書を読むと南木さんってば、とある病をきっかけにシコを踏み出すのだ。職場でも、庭でも、風呂場でも。

 真似てみた。全くできなかった。我が夏休みは、体力作りから始めねばならない。

■プロフィール
矢部万紀子(やべ・まきこ)=1961年生まれ。元朝日新聞記者。シニア女性誌「いきいき」編集長を経て、2017年フリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』。

※週刊朝日 2018年8月17-24日合併号