トークイベントで語る井上明さん(撮影/小原雄輝・写真部)
トークイベントで語る井上明さん(撮影/小原雄輝・写真部)
太田幸司投手と投げ合った延長18回の決勝の思い出を語る井上明さん(撮影/小原雄輝・写真部)
太田幸司投手と投げ合った延長18回の決勝の思い出を語る井上明さん(撮影/小原雄輝・写真部)

『全国高等学校野球選手権大会100回史』刊行を記念した「夏の甲子園 名勝負・名選手」写真展で9日、1969年の第51回大会で全国制覇を果たした松山商のエースで、元朝日新聞記者の井上明さん(67)が2日連続のトークイベント1日目を行った。

【写真】太田幸司投手と投げ合った延長18回の決勝の思い出を語る井上さん

 写真展の会場は東京・ミッドタウンのフジフイルムスクエア(港区赤坂9丁目)。井上さんは、決勝で三沢(青森)との「延長18回」を投げ抜いた。0対0で決勝初の引き分け再試合となった投手戦の相手、甘いマスクで「甲子園アイドル」になった三沢のエース太田幸司さんのパネル写真(縦60センチ×横90センチ)の前で語り始める。

「甲子園の開会式のとき、三沢高校の太田投手を仲間3、4人で見に行ったんです。今のように事前に大きく報道されることはありませんでしたが、2年生のときから甲子園に出ていた太田投手は有名だった。実際に見た瞬間、『負けた』と思いましたね。『顔では勝てない』と(笑)」

 写真展では、決勝のマウンド上で井上さんが投げ終わった後、「さあ、来い」とばかりに野手のように構えている作品もある。

「ピッチャーは9人目の野手です。本当にいい投手はフィールディングもいい。松坂大輔投手もそうですが、横浜高校などもよく鍛えられていて、バント処理などの守備もうまいピッチャーが多いですよね」

 大きなパネル写真なので、井上さんがにっこり笑っているのがはっきり分かる。会心のボールで三振でも奪ったのだろうか。

「実は狙いと違ったところにボールが行ってしまったんです。それなのに相手が打てず、『あれ?』っていう感じの苦笑いなんです」

 松山商は延長15回と16回の満塁のピンチをしのぎ、引き分けに持ち込んだ。延長15回では、ピッチャーの横を襲う強烈なゴロに井上さんが飛びつき、グラブに当てている。そのボールを樋野和寿遊撃手が拾い上げ、すぐさまバックホーム。絶体絶命のピンチを切り抜けた。そのときキャッチャーの大森光生さんと三塁走者が交錯している写真もある。捕球してホームを踏めばアウトのフォースプレーのはずだが、タッチしているようだ。

次のページ
「甲子園が真っ二つになった」瞬間