吉田:戦況悪化で軍事の専門家であれば「戦争遂行能力はない」と判断すべき状況だった。けれども、それが言えない構造だった。

鴻上:出口がふさがれ、精神論に頼るしかなくなったということなんでしょう。恐ろしいのは、佐々木さんは爆弾を投下して戦果をあげて帰還すると、上官から非難された。「なぜ死ななかったんだ」「次は必ず死んでこい」と。戦果をあげる手段だった特攻が、目的にすりかわってしまった。

吉田:なんとなく人間が操縦したほうが命中率は高いように思われがちですが、それは現場を知らないからで、実際は爆弾を投下したほうが破壊力がある。

鴻上:そうなんですよね。だから飛行士は憤り、その愚かしさを訴えた。

吉田:むしろ特攻こそ高い技術が必要で、命中することができた場合も主力の空母や戦艦ではなく、周りの小型艦艇が多い。

鴻上:僕は、爆弾を落とすほうが戦果が出るというのはこの取材で初めて知ったんですが、飛行機は揚力があるから体当たりをしようとすると減速して破壊力が落ちる。機体は軽金属で、分厚い鉄板に生卵をぶつけるようなものでしかない。

吉田:そうだと思います。

鴻上:海軍の「神風」は、ベテランパイロットの関行男大尉が、商船を改造した「護衛空母」に体当たりして沈没させた。防御力に劣る船だったから成功したと判断できるんだけれども、上層部は「空母」とし、“零戦1機で空母を沈めた”と喧伝することになる。

吉田:そういう上層部の人たちは戦後も生き残り、特攻を美化していった。

(構成/朝山実)

週刊朝日  2018年8月17‐24日合併号