■隠居の身だからこそ楽しめる書斎生活

 私は長年、大学で研究に取り組み、学生を指導してきた関係で、書くこと読むことがいわば仕事になっている。これらは組織を離れても、ひとりでできるものですべての公職を去りご隠居さんの身になってからも継続可能である。私はこのような仕事を天職として持てたことを、心から幸せに思っている。
 
 厳しいがんと闘うために、何か精神的に充実した仕事を持つ必要がある。幸いなことに、公職を去った後にもまだ新聞や雑誌のコラムに、月に数回、寄稿する機会に恵まれている。たえずマスコミの報道に気を配り資料を集め、そして構想を練る必要があるがこれがまたとなく楽しい。このような作業が脳の活性化につながり、気力を充実させてくれていることは疑いない。
 
 読むことも、長年の私の仕事であり毎日楽しみながらする日課の一つである。書斎では専門やそれに近い領域の書物をひもとく。場所を変え居間のソファに移った時やベッドの上では、新書版などの解説書や啓蒙書のやや軟らかい書物に接している。旅に出ると、時代小説や囲碁の本ともっと娯楽性の強いものになる。池波正太郎などの作家を特に好んで読んでいる。現役時代に時間が惜しくて、このような娯楽の機会を持てなかっただけに退職後の楽しみの一つになっている。

■がんに罹患していても旅行は楽しめる

 知人や友人は、ステージIVbの末期がん患者という認識から旅行に出掛けるなど到底無理で、家でじっとしていると考えられているようだ。私の行動パターンは、まったく正反対である。がんに罹患してからも、月に1~2回は必ず1泊以上の旅行を楽しんできた。以前からの旅行の慣行を変えないだけの話で、ことさら病気になったから出掛けるといったわけではない。QOLを維持するには、非常に役立っていると思っている。

 定期的に2カ月に1回は、新潟大学の経営協議会などに出席するために新潟に出張してきた。車窓から眺める上越の山々、そしてスキーを習い始めた頃の越後湯沢などのゲレンデを見ながらの旅は誠に楽しい。そして2~3カ月に1度は信州の北アルプスの麓にある山小屋(別宅)に1週間ほど滞在する。

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自然の中で囲碁