ラジオから声がかかったのは、「笑点」を降りて、半年ぐらいブラブラしてたときだった。

 ほんとは月の家円鏡(橘家円蔵)さんに頼みたかったらしい。でも都合が合わなくて、ディレクターが「そういえばちょっと前に麻雀した毒蝮ってのが面白かったから」って思い出して「お前、やるか」って連絡をくれた。

 捨てる神あれば、拾う神ありだ。べつに俺は、相手がディレクターだから面白いこと言ってたわけじゃない。いつも通りに下町風の軽口を叩いてたら、それを気に入ってくれたみたいだね。

――立川談志に独特の才能を見いだされて「毒蝮三太夫」としての人生を歩み始めた。それは運命の分かれ道だったようで、今振り返れば、結局は「毒蝮三太夫」と「石井伊吉」は同じ道を歩いていたという。

 石井伊吉って名前に未練がなかったわけじゃない。石井伊吉としてそれなりに役者をがんばってきたっていう自負も、そりゃあったよ。役者としては、まあ悪くはなかったんじゃないかな。科学特捜隊やウルトラ警備隊は、それらしくやってたと思うよ。気はやさしくて力持ちっていうアラシ隊員やフルハシ隊員のキャラとも、よく合ってた。

 だから今、ジジイとかババアとか言っても許されるのは、アラシやフルハシの役のイメージに助けられてる部分も大きいんじゃないかな。この人は、実は正義の味方なんだって。

 考えてみたら俺は、「笑点」だって毒蝮になったことだってラジオだって、自分でこうしようと思って動いたことはない。人にやってみろと言われたことをやってきた。自分にピッタリの場所を与えられて、ここまでやってこられたのは幸せだったと思う。

 そういう意味では、石井伊吉としての役者生活に未練はないかな。だけど、今の俺も結局は、毒蝮三太夫という役を演じているのかもしれない。演じているのは本名の石井伊吉だから、はまり役を見つけた石井伊吉も、幸せもんだよな。

――ラジオはこの秋で50年目に入る。毎回、放送時間が終わっても、集まったファンだけのために、30分以上の独演会が繰り広げられる。

次のページ