■子どもという時期は親の考え方を過信する

 しかしながら、先ほども述べたように、それは完全に「私の意見」なのです。息子に教えるべき考え方ではありません。もし「目には目を」なんて教えたら、それこそ宗教の教祖のように、洗脳してしまうのと同じでしょう。

 子どもという時期は、親の考え方を過信する方向にあるそうです。「お巡りさん」は「お巡りさん」、「教師」は「教師」という職業として存在しており、その人に家族がいるとか悩みがあるなんてことはあまり考えないでしょう。同様に、「母親」も「母親」という存在から切り離せないものです。

 そのため、子どもの「なんで?」に全て答えていると、「親は何でも知っている」と勘違いしてしまい、自分で考えるのを放棄して、親に聞けば大丈夫だと考えるようになるそうです。もし「なんでそうなるの?」と問いかけられたら、あまり自分の意見を答えないようにしたほうがいいでしょう。答えすぎてしまうと、子どもはすぐに親を頼る短絡的な子になってしまうし、親の考えを一般常識だと信じるようになります。

「死刑」についての考え方だって、ハッキリと私の中で固まっているわけではありません。死刑はアリだと思いながら、普段から「たたかれたら、たたきかえしていい」とは思いません。地元の静岡で起きた「袴田事件」は、死刑の判決が下りながら、今になってDNA鑑定の信ぴょう性が疑われています。彼は半世紀も収監されたため、死刑への恐怖から、拘禁症状という精神状態になってしまいました。もし本当に冤罪なら、死刑の存在が一人の人間の人生を台無しにしたのと同じです。

 死刑だけの話に限りませんが、子どもに「なんで? なんで?」と質問されたら、逆に「なんでだと思う?」と聞きかえして、自分で考えさせることが重要なのだそうです。自分の頭で考えて、答えることで、脳の発達にも論理的思考力を鍛えるにも良いし、なにより子どもの意見を尊重できます。

 決して、「親」が「教祖」として「成績が全て」だの「あの学校へ行け」だの自分の考え方を刷り込むようなことはすべきではないように思います。経験からアドバイスはしますが、息子は息子自身の考えを確立させて、のびのびと生きてほしいものです。

◯杉山奈津子(すぎやま・なつこ)1982年、静岡県生まれ。東京大学薬学部卒業後、うつによりしばらく実家で休養。厚生労働省管轄医療財団勤務を経て、現在、講演・執筆など医療の啓発活動に努める。1児の母。著書に『偏差値29から東大に合格した私の超独学勉強法』『偏差値29でも東大に合格できた! 「捨てる」記憶術』『「うつ」と上手につきあう本 少しずつ、ゆっくりと元気になるヒント』など

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杉山奈津子

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杉山奈津子(すぎやま・なつこ) 1982年、静岡県生まれ。東京大学薬学部卒業後、うつによりしばらく実家で休養。厚生労働省管轄医療財団勤務を経て、現在、講演・執筆など医療の啓発活動に努める。1児の母。著書に『偏差値29から東大に合格した私の超独学勉強法』『偏差値29でも東大に合格できた! 「捨てる」記憶術』『「うつ」と上手につきあう本 少しずつ、ゆっくりと元気になるヒント』など。ツイッターのアカウントは@suginat

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