「ゆえに結婚28年目は、夫婦の最大の危機なのです。結婚28年目は夫も妻も結婚した当時の気分の真逆にいます。しかも脳の感性の振れ幅は、プラスが大きければ、マイナスも大きいので、かつて激しく愛し合った夫婦ほど、28年目に激しい拒否反応が出てしまうのです。これは女性のほうが顕著に表れます」

 そ、そんな~! なんてせつない話なんでしょう。

「そうですよねえ。脳の真逆の感性からくる『嫌悪感』で離婚等に突っ走っていくのは、ちょっともったいない気がします。脳科学の観点から言えば、結婚30年を超えるころになると、見るのも嫌だった夫に対して、徐々に愛しさが戻ってくるのです。そして結婚35年目にもなると、今までにはない『夫婦としての一体感』も経験できるはずです」

 結婚28年目の最大の危機を乗り越えられたカップルの場合、今度は少しずつ親和性が増していく。そして28年目の7年後である「結婚35年目」には、「やっぱり自分の伴侶はこの人だった」と納得する人が多いらしい。

「脳科学上は、夫婦は35年連れ添ってみないと、本当の相性はわからないのです」

 まあでも、そこまでは長い長い道のりだ。日々の夫へのムカつきを、妻はどう抑えればよいのだろう。

「そもそも男性と女性では、持っている感性自体が違います。だから同じように行動しなくて当たり前、話が噛み合わなくて当たり前ということを腹に落としておくといいと思います」

 たとえば男性の場合、眼球は半径3メートル以遠の動くものに瞬時に照準を合わせるために「遠くをちらちら見る」という動き方をする。しかし女性の場合、眼球は半径3メートル以内をなめるように見て、針の先ほどの変化も見逃さない。このように男性と女性は「視覚の守備範囲」を真っ二つに分けて持っているのだ。だから女性から見た男性は「落ち着きがなく、目の前のものを見逃す、見るべきものを見ていない人」に思えるし、男性からすれば「飛んできたものをキャッチする能力が低く、車線変更のタイミングが悪い、見るべきものをちゃんと見ていない人」に思えてしまう。

「どちらも自分の守備範囲外の能力では認知できません。だから相手の“できないこと”ばかりが目についてしまいます。でも考えてみてください。ベストパートナーというものは、何も同じときに同じことをする関係でなくてもいいはずです。『違うこと』をして、互いに補完し合う関係でもいいはず。『自分にできることができない人は、自分にできないことができる人』。そう考えれば、腹も立ちにくくなりますよ」

 ときに意見が対立したり、相手がわかってくれないことがあっても、それを突き詰めることに意味はない。

「互いに世界観が違うのですから、わかり合えない部分は当然あります。『なるほど、相手にはこう見えるのか』と、このすれ違いはゲーム感覚で楽しむことが大切。そして別々の趣味を持ったりして、別々の人生時間を持つことで気分を紛らわせることも、夫婦を長くやっていく上では必要なことではないでしょうか」

(赤根千鶴子)

週刊朝日  2018年7月27日号より抜粋