春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です。「週刊朝日」の連載をまとめた、初エッセイ集『いちのすけのまくら』(朝日新聞出版刊行、1500円+税)が、絶賛発売中です!
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です。「週刊朝日」の連載をまとめた、初エッセイ集『いちのすけのまくら』(朝日新聞出版刊行、1500円+税)が、絶賛発売中です!
(※写真はイメージ)
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 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「世代交代」。

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 桂歌丸師匠がお亡くなりになった。たぶん、日本で、否、世界で一番有名な噺家が亡くなった……で間違いないのではないか。落語に興味がない人でも顔と名前が一致する噺家はそうそういない。行きつけの喫茶店・床屋さん・居酒屋で、挨拶代わりに「歌丸さん、亡くなっちゃいましたね……」と声を掛けられ、私は「ですねぇ……早かったですね……」と曖昧に応える。師匠とは所属している協会が違うのでお会いした絶対数が少ない。私が噺家になって17年間で通算20回会っただろうか。ちゃんとお話しさせて頂いたことは残念ながらなかった。ご挨拶程度のはるか遠い存在だ。

 世間の人はそんなこと知らないから、同じ職業ならなんかエピソードが出てくるか……と期待されているのかもしれないが、申し訳ない。「昔からお爺さんでしたね……」とか、ありふれたコトしか言えないのだ。

 亡くなった翌日、ワイドショーを見ていると歌丸師匠が会長を務めていた落語芸術協会の師匠方が会見をしていた。ご覧になった人も多いと思うが、笑顔の多い会見だった。亡くなった「翌日」の会見で、こんな和やかな雰囲気を出せるのは噺家だけではないか。普通もっと悲痛な空気が流れるもの。やはり噺家はいいなぁ……と思う。もちろん皆さん、心のなかでは泣いているのだ。でもつとめて明るく、いや無理に明るくしているのでなく、「噺家は故人を明るくお送りするもの」というのが、身体に染みついている。噺家はメソメソしないのがいい。

 生前の歌丸師匠、後輩の噺家からはよく「間もなくご臨終」的にネタにされていた。仮だとしても「死」をネタにして、それをお客さんが笑うなんて、一般的にはどうかしているコトだ。でも、普通なら聴いた人が眉をひそめるようなネタも、噺家のフィルターを通すと笑いになる。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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