準決勝の対イングランド戦で、獅子奮迅の働きをしたクロアチアの主将・モドリッチ。ジンクスをはねのけ、フランスを破り母国を初優勝に導けるか (c)朝日新聞社
準決勝の対イングランド戦で、獅子奮迅の働きをしたクロアチアの主将・モドリッチ。ジンクスをはねのけ、フランスを破り母国を初優勝に導けるか (c)朝日新聞社

 ワールドカップ(W杯)ロシア大会終了まで7回にわたってお届けする、スポーツライター・金子達仁さんのサッカーコラム。第6回は「『ありえない』が頻発したロシア大会」について。

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 自分でもいささか信じがたいのだが、ベルギー戦での逆転負けで、ワールドカップが終わってしまったような気分になっている。

 何を隠そう、過去の大会では、日本が負けたところで気持ちのスイッチが入るようなところがあったわたしである。よし、これからが本当のワールドカップ。そんな感じで。

 日本のいないワールドカップを見て育った世代ゆえだろうか。それとも、端から勝てる日本をイメージしていなかったから、なのか。とにかく、日本が負けたら1日だけ落ち込んで、翌日からはスパッと気持ちを切り替えることができていた。

 今回は、それができていない。ベルギー戦から1週間が経っても、まだあの敗戦を引きずっている自分がいる。

 日本を相手に奇跡的な逆転劇を演じたベルギーは、準々決勝でブラジルをも倒した。準決勝では惜しくもフランスの前に屈したものの、試合を支配していたのはベルギーの方が長かった。いや、日本が勝ち上がっていたら……などと言いたいのではない。ただ、1カ月前と現在では、ワールドカップというもの、世界の頂点というものの距離感が劇的に変わってしまった自分がいるのである。

 宝くじに外れて心底落ち込む人は少ないだろうが、受験に失敗して落ち込まない人はいない。これまでは天文学的な確率でしかありえないと信じていたものが、実は数パーセント、ひょっとすると十数パーセントの確率で手が届くことを知ってしまったというか、そんな感じなのだ。

 決勝のカードはフランス対クロアチアとなった。単純な戦力比較であればほぼ互角の両チームだが、状況を鑑みれば、フランスの優位は動かない。クロアチアより休みは1日多く、決勝トーナメントの3試合はすべて90分で決着をつけてきた。全試合が延長戦にもつれ込んだクロアチアとは、体力的な余力にずいぶんと差がある。

 しかも、過去の大会の決勝において、優勝経験のある国がない国に敗れたのはたった2回しかなく、しかも、その2回はどちらも開催国の初優勝だった。フランスには優勝経験があり、クロアチアにはなく、これがロシア・ワールドカップである以上、番狂わせはちょっと考えにくい。

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