「50代で施設見学に行こうとすると、見学を断られるかもしれません。そんなときこそ、親の予算に見合った施設を親と一緒に何カ所か見学しましょう。高齢者施設とはどういうものかを知ることから、始めるとよいです」(畠中さん)

 自分は施設の共同生活になじめるのか。施設を見学しながらそんなことも考えたい。マンションのように居室が独立した住宅型有料老人ホームや、サ高住もある。ただ、こうした施設は、自立した生活ができなくなった際、介護付き施設に移り住む必要がある。お金がそのつどかかることを意識したい。

 60代は多くの人が定年退職を迎える時期。新たな働き口を探すか、完全に仕事をやめるかなど、リタイアの時期も人それぞれ見えてくる。退職金、再雇用で働いた際の収入、年金生活に入った際の貯金の取り崩し額などを計算して資金計画を具体化するとよい。

「自分が年金生活に入ったとき、貯金から取り崩す額が大きいと、入居一時金として払えるお金がそれだけ減ります。将来的に施設入居を考えるならば、余剰資金をある程度残しておくことが必要です。自ら考えていた以上に長生きしたため、貯金が底をつきそうになって毎月の諸経費を払えなくなり、90代になって再び住み替えを迫られる人も増えています」(同)

 老後のお金を考えるにあたって、畠中さんは次のような方法を勧めている。

 まず今あるすべての金融機関の口座残高、定期預金、株などの金融商品をノートに書き出し、自分の財産を把握する。さらに、年間の収入や支出など家計の収支を計算。貯金を取り崩してまかなう赤字額が、いくらくらいになるのかをはじき出す。

「65歳時点で月5万円の赤字があると、年間60万円になる。固定資産税の支払いなどを加えると年間70万円。貯金をそれだけ毎年取り崩し続けると、施設に入ろうとする80歳時点で貯金がいくら残っているかわかります。その額から、どんな施設に入れるかもある程度絞られます」

 施設入居を考える人は、資金の工面のために持ち家を手放す必要があるかも考えておきたい。売るならばいつごろで、どの程度の収入を見込めるのか。

 畠中さんは実母(86)が一軒家の自宅から今のマンションに移り住むとき、どんな介護を受けたいのかも母に確認したという。

「介護が必要になったときは私たち家族と同居し、在宅介護を受けることを提案しました。すると、母は嫌だと言ったので、介護が必要になったときに高齢者施設に入ることを想定して、いったんマンションに住み替えました」

 マンションは、賃貸できるように駅近の物件を選んだ。賃貸収入と年金を足すと、月々の介護費用を支払うめどがついた。施設入居に必要な一時金は、貯金と実家の売却資金を充てる計画だ。事前準備ができているため、介護が必要な身になっても安心だという。畠中さんはこう話す。

「少しずつ荷物を処分していき、母も心の準備ができています。住み替えのときに、確認しておいてよかったです。80代で施設に入ることを考え、一軒家の自宅からマンションなどに一度住み替えるには70代が体力的な限界です。リタイアした60代のうちから、自宅をどうするのか考えておくと慌てなくて済みます」

 70代になると体力低下を自覚する人が増え、80代後半になると認識力が落ちたと考える人が増える。施設入居を決意してから慌てないよう、体力のあるうちに少しずつ不用品を処分するなど「断捨離」を心がけたい。(村田くみ)

週刊朝日  2018年7月27日号