原発では1年に1度、定期検査が義務づけられている。破損したり老朽化した部分がないか点検するためだが、検査中は発電を中止しなければならない。
いきおい、すべての原発検査が電力需要の小さい、秋から春に集中する。
■作業員宿舎で布教し信者も獲得
全国の原発で、こうした被曝作業に当たる人は、年間約6万人。福島原発の定期点検作業でも、1日約1200人が作業にあたる(95年当時)。
その時期は、人手はいくらあっても足りない。
しかも、検査業務は、電力会社が大手電機メーカーなどに発注するが、そこからさらに何段階も下請けに回される。検査に直接当たるのは、孫受け、曾孫受けの会社の社員ということが多い。親会社の目もそこまで行き届かないのが現実だ。
ある検査会社幹部は、
「工期は厳しく決められている一方で、一定量被爆した人は健康管理上、もう作業に使えない。検査といってもゴミをふいたり雑用は多いので、助手はいくらでも必要。二次下請けまでは社員の管理も厳重だけど、そこから下はだれでもいい。いちいちチェックはできない」
と話す。東京電力でも、
「住所、氏名や被曝線量は管理するが、検査に入る作業員の思想信条までチェックしていません」
という。
先にも触れたように、Aさんらは、オウムの在家信者が社長を務める検査会社を通じて原発へ派遣されていたのだが、この社長が、そもそもオウム信者を雇ったのは、92年1月に教団の福岡道場で知り合った無職の若者に、「一度、うちで助手でもしないか」と誘ったのがきっかけだった。それが信者間に口コミで広がったらしい。
そのころのオウム道場といえば、若いまじめな若者の「宝庫」で、この社長も人手不足解消の手だてとして、次々に雇っていたという。
しかも、社長は、派遣する作業員がオウムの信者であると依頼会社に告げたうえで、それでもいいという了解まで取りつけていた。Aさんの場合も、履歴書でも、オウム信者であることを隠しておらず、作業所でも、オウムであることは周知の事実だった。