空港にあるような金属検知器も設置されているが、これも、

「原発の作業に必要な金属製品は、横の窓口に渡せば、調べもせずに渡してくれます」

 カメラは、この手で持ち込んだという。

■マル秘資料もコピーして持ち出す

 持ち込みだけではない。Aさんの手元には、厚さ5センチを超える、福島原発と浜岡原発の分厚い資料がある。そこには、原発の配置や内部の見取り図、検査作業の手順や方法を記したマニュアル、検査報告書が含まれている。

 例えば、「3号機原子炉建屋PCV全体図サーベイ記録」という図には、原子炉内部の配管の位置や様子が詳細に記されている。

 また、「原子力プラント定検及び増設・改良工事」というタイトルの資料には、「社外秘」の3文字が打たれている。

 福島原発の地下1階から地上5階までの詳細な平面図もある。原子炉をコントロールする冷却水のバルブの位置など一目瞭然だ。

 この図を見た反原発市民団体、原子力資料情報室の西尾漠さんは、驚きを隠さない。

「こんな資料を、下請け会社の人が勝手に持ち出せたというのが信じられない。原発事故が起こったとき公開される資料でさえ、安全管理上重要な部分は隠されるのが普通です。この図のように、なにもかも記してあるのは、見たことがありません」

 では、どうやってそれだけの資料を手に入れたのか。

「原発内にある電力会社の事務所でコピーをとりました。とがめるどころか、電力会社の人は、『コピーして覚えろ』というんです。資料なんていくらでもコピーできましたよ」

 と、Aさんは事もなげにいう。

 それにしても、オウムが原発の核心部へ組織的に人を送り込み、しかも、原発の安全管理にかかわる情報を得ようとしていたとなれば一大事である。捜査当局もこうした情報をつかみ、5月以降、福岡県警がオウム信者を組織的に雇っていた会社などを捜索し、社長を労働者派遣事業法違反で逮捕。さらに数十人から事情聴取した。

 オウムが原発へ入り込んだ目的の解明は、捜査の重要なポイントだったが、その前に、原発の定期点検がどのようなもので、どんな作業が行われるのかを説明しよう。

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オウム信者かどうかはいちいちチェックできない