【文豪の湯宿】ドイツ兵の騒動を小説に…“昭和の漱石”の定宿

鈴木裕也週刊朝日
部屋にも個室温泉はあったが、文六は大浴場に好んで入った
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部屋にも個室温泉はあったが、文六は大...

 文豪たちの作品に登場する温泉宿を訪ねる連載「文豪の湯宿」。今回は「獅子文六」の「松坂屋本店」(神奈川県・箱根芦之湯温泉)だ。

【文豪が愛した大浴場の写真はこちら】

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“昭和の漱石”とも呼ばれた作家・獅子文六が箱根・芦之湯に着目したのは昭和18年。この前年、横浜港でドイツの仮装巡洋艦が爆発する事故があった。生き残った100人余りのドイツ兵が松坂屋旅館(現在は松坂屋本店)に寄宿したことで、箱根に青い目の子供が多数生まれたという“街の事態”を取材し始めた。

 昭和30年には、NHK連続テレビ小説の原作になった『娘と私』を松坂屋本店で執筆。以来、毎夏の宿泊が習慣になる。当然、土地の事情にも通じてくる。昭和30年ごろの箱根は、観光開発をめぐり大手企業が旅館を巻き込み、「箱根山戦争」と呼ばれる大騒動が展開されていた。

〈旅館の一室で、アンマをとりながら、このケンカばかりしてる山のことを、書いてみようかという気になった〉(「『箱根山』を降りて」)

 昭和36年から朝日新聞に連載された小説『箱根山』は、老舗旅館同士の争いに恋愛物語を絡め、さらにドイツ兵滞留の混乱を綿密な取材をもとに書き進めた作品。加山雄三、星由里子主演で映画化された。

 長く絶版だった『箱根山』は昨年復刊され、再評価されている。

(文/本誌・鈴木裕也)

■松坂屋本店(まつざかやほんてん)
神奈川県箱根町芦之湯57

週刊朝日 2018年7月20日号

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