過剰なCT検査でよくあるのが、例えばこんなケース。胸部のエックス線(レントゲン)検査をして肺炎が見つかった。そしてさらにCT検査をし「やっぱり肺炎だった」というもの。

「これは完全に不要な検査です。レントゲン撮ったから次はCTというパターンが常態化している医師がいるのです」と岩田医師は指摘する。

 目的が明確でないMRI検査も不要だ。例えば不調がないにもかかわらず脳のMRI検査をする。すると、70歳以上では3割の人に脳の細い血管が詰まって起こる「無症候性脳梗塞」(隠れ脳梗塞)が見つかる。

「無症候性脳梗塞は、治療の効果と副作用が釣り合うかというと、副作用のほうが強いため治療は慎重におこなうべきだという研究結果が出ています」(名郷医師)

 無症候性脳梗塞の治療では、血液をさらさらにする薬(抗血小板薬)が処方される場合があるが、その副作用で胃潰瘍を起こす可能性がある。すると今度は、「年に一度は胃カメラをやりましょう」と、どんどん医療に取り込まれていく。

 このような検査をしたことによる医療の連鎖を“MRI症候群”と名郷医師は呼ぶ。

「過剰な検査や不要な治療は数えきれません。検査はすべて特定の病気を疑い、目的をもっておこなうもの。MRIやCTだけでなく、血液検査などのすべての検査で、“念のため”の検査は無駄です。検査を受けるときは、必ず医師に目的をたずねましょう」

 患者側もついつい病院に行くと、お土産のように薬や治療を求めてしまいがちだ。風邪で抗生物質の処方が減らない背景には、薬が出されないと「せっかく来たのになぜくれないのか」と医師を責める患者がいるのも事実。

 こうした現状を踏まえて、今年4月から薬を「処方しない」医師に報酬が支払われるしくみができた。子どもの風邪や下痢に対して、抗生物質が不要であることを説明して「処方しなかった」ときに加算がつくようになったのだ。

 正しい判断をできる医師こそ、不要な治療はしない。「薬をもらえなくても、『薬は必要ない』という判断料として医療費を考えてほしいです」(岩田医師)

(本誌・井艸恵美)

週刊朝日 2018年7月20日号