科学的根拠に基づくプライマリ医療の第一人者である、武蔵国分寺公園クリニック院長の名郷直樹医師は、こう話す。

「肺炎予防のために抗生物質を大勢に使った結果、抗生物質が効かない耐性菌を増やし、本当に肺炎になったときどの薬も効かない、という状況を作り出しているのです」

 耐性菌の問題だけでなく、下痢や嘔吐などの強い副作用も深刻だ。その治療のためにさらに医療費は膨らむ。

 厚労省は昨年、抗生物質の使用指針を発表した。風邪では、確実な細菌感染や呼吸器の病気など持病がある人以外は、抗生物質を使わないことを推奨している。風邪と同様に、軽症の急性中耳炎や副鼻腔炎、急性下痢症などのほとんどに抗生物質は不要だ。

 抗生物質を使うときも、より安い薬のほうが経済的な負担は軽くなる。日本では、古い薬のほうが安い。薬を選ぶ基準になるのが、専門の学会が作成する診療ガイドラインの推奨度だ。しかし、このガイドラインの作成過程にも問題がある。神戸大学大学院医学研究科・感染治療学分野教授の岩田健太郎医師は話す。

「日本のガイドラインには、制作協力として製薬会社の名前が入っていることがあります。本来、製薬会社との独立性は担保されなければならない。製薬会社が影響を与えている限りは、高い新薬が優先的に推奨される可能性は否めません。しかし、古くからある安い薬は、長い使用実績があるため、効果と安全性に関するデータが豊富な点において、新薬に勝るのです」

 では、患者はどうすればいいのか。名郷医師は「不要な受診はしないことだ」と言い切る。

「明らかに風邪や中耳炎という場合は、病院に行く目安は3日後。細菌が原因の中耳炎であっても70%は3日以内に治ることが示されています。市販の風邪薬は処方薬以上に強いため、かえって副作用のリスクが高い。まずは自宅で静養して、回復しなければ病院を受診したほうがよいでしょう」

●不要なCTやMRI
 薬だけでなく、不要な検査も無駄な医療費を招く。特に、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴断層撮影)の検査は、一度の検査で高額な費用になる。ちなみに日本のCTとMRIの台数は他国と比べて飛び抜けて多い。検査機器は、1台数億円することもざらだ。病院はいくら稼働率を上げても、機器の償却だけで何年もかかる。

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