「『歌丸動物園』みたいでした。40年ほど前から犬を飼い始め、犬とがそれぞれ10匹くらいいたころも。犬の柵の上を猫が飛び交い、フクロウやアオバズクなどの鳥が羽をはばたかせ、釣ってきたタナゴなどの魚が水槽で泳いでました。5年くらい前、最後に残った犬が死んだときには、師匠は『もう、飼えないよ』って本当に寂しそうでしたね」

 歌春さんは6月27日に入院先の病院へお見舞いに行った。歌丸さんは呼吸器をつけ、呼吸が荒かった。過去には入院中でも見舞客の笑いをとろうとしたなど落語家らしい大喜利エピソードが有名だが、歌丸さんからの最後の言葉は、人柄をよくあらわすものだった。

「きょうは息が苦しくて話ができなくて悪いね。あなたも忙しいんだから帰んなさい」

 この気遣いこそ、落語家桂歌丸が人びとを惹きつけてやまなかった理由かもしれない。歌春さんによると、歌丸さんは自ら、子どものころ肉親の縁が薄かったことを公表。その分、家族のみならず、弟子やペットにも愛情を注いでいたという。

 7月2日、眠るように静かに息を引き取った。

 歌丸さんが出演予定だった8月11~20日、国立演芸場の高座は、一門の弟子5人が交代で舞台に上がる予定だ。(本誌・上田耕司)

週刊朝日  2018年7月20日号

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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