優勝候補のベルギーに敗れベスト8入りを逃した日本チーム。負けはしたが、勤勉で緻密で勇敢な「日本人らしいプレー」は、世界中に称賛された (c)朝日新聞社
優勝候補のベルギーに敗れベスト8入りを逃した日本チーム。負けはしたが、勤勉で緻密で勇敢な「日本人らしいプレー」は、世界中に称賛された (c)朝日新聞社

 ワールドカップ(W杯)ロシア大会終了まで7回にわたってお届けする、スポーツライター・金子達仁さんのサッカーコラム。第5回は「日本が見つけた頂点への一本道」について。

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 敗北を殊更に美化するつもりはない。むしろ、それだけはすまいと自らに戒めてきたつもりでもある。

 だが、今回だけは思ってしまった。

 玉が砕ける負けとは、こういうことをいうのか、と。

『歴史に残る試合』と書いたのはベルギーのヘット・ラートステ・ニュース紙だった。英国BBCの電子版は『勝ったのはベルギーだが、感銘を与えたのは日本』と伝えた。日本より早く大会を去ったドイツのディー・ツァイト紙は『今大会のベストシーンに日本は確実に含まれるだろう』と評した。

 ミスをあげつらっていったらキリがない。けれども、そうしたものを忘れさせるだけの戦いを、2018年7月2日の日本はやった。ポーランド戦で自ら着てしまった汚名を完全に晴らし、世界中に日本シンパを誕生させる試合だった。

 36年前、イタリアに2-3で敗れたジーコたちのブラジルがそうだったように、である。

 イタリアの名将カペッロは、ベルギーが決勝点をあげた場面を取り上げ、「わたしが監督ならば本田の首根っこをつかまえて怒っている」と言ったそうだ。あの時間、あの状況で真っ正直にGKにキャッチされるようなボールを蹴った本田が信じられないのだという。

 だが、わたしは本田を非難しようとは思わない。そもそも、本田を非難する資格はない、とも思う。

 想像していただきたい。試合時間も残りわずか。あわやというFKを放たれたのが日本の側だったとしたら。辛くも防いだものの、CKを取られてしまったとしたら。

 わたしだったら、必死に耐えることだけを考える。何とか最後のピンチをしのぎきり、延長戦に持ち込むことだけを考える。わたしがGKだったら、相手のボールが胸に収まった瞬間、倒れ込んで試合を終わらせようとする。

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