前年の10月に胆のうがんが見つかったようだから、約7カ月後に自分の生き方を貫き逝ったということである。

 このニュースは私にとっても、ひとごとではなかった。抗がん剤を使用しない場合、がんがどのように進行して患者を死に至らしめるか、明確に見た思いがしたからである。

 実は、2年前にがんが発覚し、セカンドオピニオンのためにがん研有明病院の齋浦明夫先生の診断を受けた時のことを思い出した。その時私は非常に元気で、がんに罹患したと半ば信じられず、家内共々「このまま放置したら、どうなりますか?」と尋ねたことがある。

 その時の答えは、「がんは2、3カ月後に動き出し、悪さをしますよ」ということであった。

 安崎氏の死は、まさに齋浦先生の答えの通りになったような気がした。私自身、もし抗がん剤治療を受けていなかったら、その病状から判断しておそらく1年以内に人生に終わりを告げていたと思われる。

 私は家内に、「がんが見つかった時に、安崎氏と同じようなことを言い出したら賛成するか」と尋ねたら、言下に否定された。
 
 この2年の間、抗がん剤治療を受けてきたが、その副作用の苦しみに耐えながら夫婦で力を合わせて末期がんと向き合い元気に過ごせたことは幸せであったと思う。

 この思いが、2人の胸をよぎったからだ。

 がん患者の生き方は様々であり各々尊重されるべきだが、われわれの選択もありだと改めて確認した。

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石弘光

石弘光

石弘光(いし・ひろみつ)1937年東京に生まれ。一橋大学経済学部卒業。同大学院を経てその後、一橋大学及び放送大学の学長を務める。元政府税制会会長。現在、一橋大学名誉教授。専門は財政学、経済学博士。専門書以外として、『癌を追って』(中公新書ラクレ)、『末期がんでも元気に生きる』(ブックマン社)など

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