腹膜とは、腹部の筋肉の下と腸の間にある腹腔と呼ばれるスペースをぐるりと覆っている膜のことだ。手術で腹腔内にカテーテルを留置し、そこにバッグから透析液を注入。一定時間、そのままにしておくと透析液との浸透圧により、腹膜の血管から老廃物と余分な水分が出てきて透析液に移動し、血液が浄化される。

 腹膜透析液の交換は患者自身がおこなう。通常1日3~4回(朝、昼、夕、就寝前)で、1回の透析時間は30分程度。「自動腹膜透析(APD)」といって、日中の交換をなくし、寝ている間に透析ができる方法もある。

「勤務先では、透析液のバッグは職場にちょっとしたフックがあれば簡単に実施可能です」(同)

 なお、腹膜透析を実施していても、腎不全が進んできたり、腹膜の機能が低下してきたりしたら、血液透析へ移行するほうがいいという。

「ただし、腹膜透析から血液透析に移行する際、ライフスタイルの変化から患者さんの心理的ストレスも大きくなります。そこで注目されるのが腹膜透析を基本に週に1回の血液透析を併用する『併用療法』で、10年から保険適用となっています」(同)

 一方、血液透析での治療を長年、続けている人が要介護になり、通院が難しくなった場合、血液透析をやめて在宅医療や介護保険制度を使い、自宅で腹膜透析を受ける方法も可能になっている。

 自宅で腹膜透析ができれば高齢者の「家で最期を過ごしたい」という希望を実現できる。最近では使いやすさを考えて、タッチパネルや音声ガイダンスなどのサポート機能が備わった腹膜透析の機器があり、今春には遠隔治療ができるデータ通信機能があるものも新たに登場した。

■夫婦間で提供する生体腎移植が増加

 末期腎不全の治療法として、忘れてはならないのが腎移植だ。うまくいけば厳しい食事制限や治療から解放され、健康な人とほぼ変わらない生活ができる。

 腎移植には、臓器移植法に基づいて病気や事故で亡くなった人から腎臓をもらう「献腎移植」と、生きている人から片方の腎臓のみの提供を受ける「生体腎移植」の大きく2種類がある。

 なお生体腎移植のドナーは基本的に血縁者(6親等以内)または配偶者と3親等以内の姻族に限定している。

 いずれの腎移植も末期腎不全で透析治療が目の前に迫っている人はもちろん、長年、治療を受けている人も対象だ。

 筑波大学病院腎臓内科教授の山縣邦弘医師は言う。

「『献腎移植』の数は希望者に対して大幅に不足しており、移植希望者の約2%弱(年間)しか受けられていない状態です。本来、献腎移植が本流のはずですが、腎不全患者の増加にともない、生体腎移植は少しずつ増加してきています。背景には移植医療の技術が上がったことがあります」

 生体腎移植はかつて、A型とB型など輸血ができない「血液型不適合」の場合、手術後透析に戻らない割合(生着率)が悪いため、手術適応とされなかった。

「しかし、現在は基本的にどの組み合わせでも可能です。移植の前に患者さんに免疫抑制剤を服用してもらうなどの処置で、生着率が高まるからです」(山縣医師)

 また、内視鏡による手術も増え、ドナーの負担も軽くなった。このため最近は、夫婦間の腎移植も増加しているという。

 このように末期腎不全に対する治療法は複数ある。よく理解した上でライフスタイルに合った方法を選ぶべきだろう。

◯日本赤十字社医療センター腎臓内科部長
石橋由孝医師

◯筑波大学病院腎臓内科教授
山縣邦弘医師

(文・狩生聖子)

週刊朝日 2018年7月13日号