柴田氏は、未払いの年金が支給されなければ報酬は受け取らないという。成功報酬は支給額の20%にしている。

 柴田氏はAさんや親類の記憶などから、重工メーカーや運送関連企業、進駐軍施設など、7社に勤務していたことを探し当てた。

「Aさんや親族に聞き取りし、父親が『ハンドルを握っていた』と話していたことがわかりました。断片的な情報をつなぎ合わせて、少しずつ歩んだ道をたどっていきました。一般人では、戦前・戦中の古い勤務先などを探すのは難しいでしょう」

 Aさんは昨年8月、父親の勤務先を記入して、年金を請求した。すると今年3月までに、80代後半の母親に計約1900万円が支払われた。請求漏れの期間は計137カ月分に上り、父親が働いていた期間のおよそ半分にあたる分の年金が支払われていなかったことになる。

 支払われた内訳は、父親が亡くなるまで本人に払われるはずだった老齢厚生年金約1543万円、亡くなった後から請求するまで遺族に払われるはずだった遺族厚生年金約417万円。母親には毎年26万円の遺族年金が上乗せされることになった。

 年金を受け取る権利は、本来は5年経つと時効によって消滅してしまう。ただし、「消えた年金」問題を受けて07年に施行された「年金時効特例法」により、記録が修正されたものなど一定の条件を満たせば救済される場合がある。この特例を適用すれば、本来は時効でもらえなかった年金が、支給開始時にさかのぼって全期間分払われるのだ。

 特例のおかげで、Aさんは年金を全額取り戻せた。

「父親は今回の判明分以外にも年金をもらっていたので、『足りない』という話は生前聞いていませんでした。未払いが見つかったことで、母親は大変助かっています」

 柴田氏によれば、戦前・戦後といった古い時期には厚生年金の制度があまり知られておらず、年金手帳が発行されないこともあった。そのため、特に請求漏れが多いという。

 当時は勤務先が変われば、同じ人でもその都度、年金番号が割り当てられた。社会が混乱している中で、職を転々とする人も多かった。長い間に倒産したり、社名が変わったりして、当時の正式な企業名がわからないこともある。働いていても職種や立場などによって、年金の対象にならない可能性もあり、素人では判断しづらい。(本誌年金取材班)

週刊朝日 2018年7月13日号より抜粋