小遊三「実は人にはないすばらしい才能、天分があったと思う。あれだけの古典落語をきっちり、自分の思った通りにしゃべるというのをやっている噺家はそんなにいない。大先輩と比較しても、歌丸師匠のすばらしい切れ味というか正確さというのはそういない。素晴らしい」

米助「とにかく、生き方から何からすべて芸に向かっている方。歌丸師匠はだじゃれを言うと、『あんたそれはぐじゃれだよ』と言うんですね。だじゃれが大嫌いな人で、何かしゃれを言うんならユーモアのあるものを言えよと、すべて芸に結びつけていた。野球で例えると、王貞治じゃないかという感じ。長島(茂雄)さんのように天性だけじゃない」
歌春「『師匠は喋るのも苦しいでしょうから、ただニコニコしているだけでお客さまは喜んでくれますよ』と言ったんですが、そのときも師匠は『いやいやそうはいかないよ』と言っていた。続けてきた歌丸独演会が大きな財産になった」

──歌丸師匠の心配事は何だったのでしょうか。

米助「一番心配なのは弟子だったんじゃないか。弟子ばっかりが心配をかけていた。あとはマイペースというか自分の芸をしていた。愚痴も聴いたことがない。酒も飲まないくせに酒飲みの食べ物が好きでね。塩辛、いか、いくら、からすみ。あと好きなのはせんべい。塩せんべいはダメでしょうゆせんべい。しかも硬いやつですね。あんこも、つぶあんはダメでこしあん。しろあんはダメ。ほんとのあずきのあんこじゃないと食べない人でした」

歌春「浅草のある店のせんべいが大好きだったんですが、店主も頑固で『お客は並ばないと買わないよ』という。もちろん、歌丸も並んだんですが、がんこ同士で喧嘩になっちゃった。『お前んとこじゃ、買わない』と言ったんですが、やっぱりどうしても買いたいということで、弟子が買わされに行きました(笑)。落語を残すのは落語家の仕事だと言っていました。歌丸はお客様から『あの人は名人だね』と言われるようになりなさいと言ってました。笑いたくて来ているんだから、そういうお客さまを満足させるようになりなさいよと言われてました」

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落語の未来は?