そして何より、ああいう内容で、ああいう結果で決勝トーナメント進出を果たしたことで、選手は燃え尽きることなくベルギーとの一戦に臨むことができる。02年のトルコ戦や10年のパラグアイ戦とは違い、目標を達成した脱け殻としてではなく、ここで結果を出さなければすべてが否定されかねない、という飢えた挑戦者として決勝トーナメントを戦うことになる。

 こんなことは、かつてなかった。

 選手たちはもちろん、韓国がドイツを倒したことも知っている。

 悪質な反則を連発し、世界中から白い目を向けられていた韓国は、「日本に比べて」という彼らからすればもっとも屈辱的な見方をされてきた今大会の韓国は、最終戦でドイツを倒したことでその評価を一変させた。世界中が固定させつつあった『日本=アジアの盟主』というイメージを、土壇場でひっくり返して見せた。

 日本の選手たちは、もちろんそのことを感じている。

 もし冴えない内容でベルギーに完敗するようなことがあれば、ポーランド戦での日本が最新にして最後の印象として、世界のサッカーファンの記憶に刻まれてしまうこともわかっている。

 それでもよし、と考える日本選手は、たぶん、誰もいない。

 もう一つ、韓国がドイツを倒したことで、それも勝つしかない、死に物狂いで向かってきたドイツを倒したことで、韓国選手だけでなく、日本選手の意識の中でも明確に変わった部分があったはずである。

 頂点との距離感。

 4年前、本田圭佑がブラジル・ワールドカップにおける目標を「優勝」と公言したとき、「何を大それたことを」と失笑する日本人は少なくなかったが、それは何も、日本人に限ったことではなかった。チームを率いていたザッケローニ監督でさえ、本田の発言には困惑の色を隠さなかった。

 日本人にはできるはずがない。アジア人が、黄色人種がワールドカップで優勝するなんてありえない。世界中の圧倒的多数の人が、そう思い込んでいた。

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