「駐屯地の工事期間中は多くの作業員が来て、飲食店や宿泊施設の売り上げが伸びた。いまは隊員とその家族が250人ほど住んでいる。ネットの通信販売の利用者が急に増えたので、島の運送屋が激務になったと聞いています」(玉那覇さん)

 3位の加賀市(石川県)は21%増。北陸新幹線の工事など市内の景気は堅調だという。

 4位東洋町(高知県)、5位太良町(佐賀県)、6位芸西村(高知県)は、もともとは年収の水準が低かったが、農林水産業の振興に力を入れ、所得が伸びた。

 年収の低いところも見ておこう。北海道や東北、九州の過疎や高齢化に悩む自治体が目立つ。

 全国で最も年収が低いのは球磨(くま)村(本県)で197万円。トップの港区とは6倍近い差がある。人口は3700人で10年から13%減った。65歳以上の高齢者が4割で全国平均の約1.5倍。村の中央を日本3大急流の球磨川が流れ、平地が少なく9割は山林だ。

「企業誘致ができず地場産業も育ちにくい。村外からの移住を促す取り組みをしていますが、大きな成果はあがっていません」(村役場税務課の担当者)

 年収の減少率が高いところもある。

 東日本で3位の鳩山町(埼玉県)は7%減。人口は1万3900人で10年から1割減り、高齢者が占める割合は4割弱。町役場税務会計課の担当者はこう説明する。

「1974年に『鳩山ニュータウン』ができ人口が増えましたが、町内に働く場所がないため、その子どもたちが町内に定着しませんでした。団塊の世代が定年退職し、年収が下がっています」

 今回のランキングは1人あたりの年収をもとにしている。貯金があっても年収が下がった人が多い自治体は、低めの順位になる。ランキングと住民の豊かさは、必ずしも一致しない。年収が少ないところでも、農業や漁業をしながら充実した生活をしている人はたくさんいる。

 年収が高い街は家賃などの物価が高く、生活が苦しい人も目立つ。年収が低い街から高い街に移り住んだとしても、幸せになるとは限らない。「勝ち組」にあこがれるかもしれないが、楽しい生活を実現するには、自分の力で切り開くしかなさそうだ。(本誌・吉崎洋夫)

週刊朝日  2018年7月6日号より抜粋

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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