「今は空前の引き抜き合戦が行われているのだと思います。引き抜きが成功すると、テナントはすぐに移転するわけではないので、既存と新規の二つのビルで契約に『ダブリ期間』が生じます。その期間は両方のビルが埋まっていて、空室が顕在化しません。空室率が低くなる、もう一つの原因です」(牧野氏)

 牧野氏は早晩、ダブリ期間のマジックは解け始め、空室率が上昇すると見ている。そして引き抜き合戦は、より弱いほうへと向かう。新規の大型ビルにテナントを奪われた既存の大型ビルは、中堅ビルからテナントを奪う。テナントを失った中堅ビルは、さらに小さいビルからテナントを奪う……。

 こうした状況があるからこそ、賃料は上がらないのか。

「何年何月とは言えませんが、私も20年のオリンピック前に不動産マーケットは下落局面を迎えると見ています」(同)

 住宅地にも懸念は多い。

都内のタワーマンションの供給は、なお活発だ。不動産経済研究所によると、18年以降に完成予定なのは23区内で123棟・約5万5千戸。港区の33棟を筆頭に、中央区14棟、品川区13棟など相変わらず湾岸エリアが多いが、どこまで需要を吸収し続けられるか。

「潜在的に売りたい人はいっぱいいるから、それが顕在化する可能性がある」(同)

 シニア層が郊外の戸建てを売って都心のマンションに住み替える「都心回帰」も盛んというが、前提が徐々に崩れつつある。郊外の地価はすでに下落し始めていて、思うような値段がつかなくなりつつあるからだ。

「一部地域では、ほとんど投げ売り状態のところも出始めています」(新井氏)

 強気と弱気が交錯する不動産市場。新説を唱える榊原教授に、賛否両論のさまざまな見方があることを伝えると、

「皆、知らないだけじゃないですか。私の考えは、いささかも揺らぎません」

 ときっぱり。そして、その目は、早くも次の「局面」に向かっていた。

「来年1月から下落が始まり、21~23年あたりが底になるでしょう」

 知人に「あと3~4年は待て」とアドバイスすると言っていた意味は、これだったのか。言うまでもないが、それは次の「買い時」を意味する。(本誌・首藤由之)

週刊朝日  2018年7月6日号より抜粋