不動産事情に詳しいオラガ総研の牧野知弘氏は、新説がそうした個人投資家の動きに着目している点を評価する。

「今の不動産市場の特徴は、国内外の個人富裕層が不動産投資に進出し、市場の中でかつてない分厚い層を形成していることにあります。平成バブルのときとは比べものになりません。不動産を使った相続対策も活発で、こうした純粋投資と節税の個人マネーが都心部など一部のエリアで一定程度、市場を動かしています」

 また、金融マーケットに関心のある人ほど、株価との連関性が気になるようだ。元証券マンで不動産鑑定士の新井隆之氏が言う。

「株価と地価の連関性はあると思います。これはチャートから傾向を読み取る、いわゆるテクニカル分析ですが、テクニカルは経済の基礎、すべてのファンダメンタルズを織り込みますから。理屈ではない、摩訶不思議なものなのですが……」

 しかし一方で、新説に懐疑的な見方も強い。不動産鑑定士の置鮎謙治氏が、

「例えば7千万円のタワーマンションを買って2割値上がりしたとすると、譲渡益は1400万円です。この利益にかかる税金が約4割から約2割になったとしても、その差は約280万円にすぎません。賃貸に出していれば、差額は1年程度で回収できる場合もありますから、ここへのこだわりが市場全体を動かすとはとても思えません」

 と言えば、東京カンテイ市場調査部の井出武・上席主任研究員も、

「譲渡益の税率が売却の決め手になるとは、あまり聞きませんね。今の富裕層は天井が来たと思ったら、迷わず売りに出ます。税率が変わるのを待ったりはしません。事実、値上がり期待で買った、ご指摘のような物件は、すでに15年ぐらいに売りに出されていました。13年から15年の2年で、首都圏のマンションは約2割値上がりしましたから」

 と話す。

 新説の当否はともかく、「19年1月」説を話しだすと不動産関係者は誰しも耳をそばだてる。高くなった地価の行方が気になって仕方がないからだ。

「地価が危険領域にあることは確かで、皆が警戒しています。もっとも、警戒し始めたのは2~3年前からなのですが……」(先の不動産鑑定士の新井氏)

ただし、聞こえてくるのは相変わらず景気のいい話が多い。(本誌・首藤由之)

週刊朝日  2018年7月6日号より抜粋

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首藤由之

首藤由之

ニュース週刊誌「AERA」編集委員。特定社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー(CFP🄬)。 リタイアメント・プランニングを中心に、年金など主に人生後半期のマネー関連の記事を執筆している。 著書に『「ねんきん定期便」活用法』『「貯まる人」「殖える人」が当たり前のようにやっている16のマネー 習慣』。

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