18年、年が改まった頃から腫瘍マーカーが上昇しだした。明らかに薬剤耐性のために抗がん剤が効力を失う兆候が見え始めたのだ。そこで2月からそれまで投与してきたアブラキサン+ゲムシタビンを断念し、最後に残された最強といわれる抗がん剤「フォルフィリノックス」に切り替えることにした。ところが何と皮肉なことか、5回投薬した結果、腫瘍マーカーの上昇を食い止めることができず、私には全く効かないことが判明した。

 抗がん剤治療はある時期が来ると分岐点がきて、抗がん剤治療自体が逆に負担となり、がんを進行させ腫瘍マーカーを増大させる働きに転じるらしい。というのも抗がん剤は、がんの進行を抑える免疫細胞などの正常細胞にもダメージを与え、その機能を奪うからである。
 
 そこで思い切って抗がん剤投与をやめ、休薬期間を置いて体を休めることにした。5週間の休薬後、またゲムシタビンを再使用し腫瘍マーカーの上昇を抑えようとしている。またアブラキサンの再使用も考えてはいるが、かつて効きめが減退した抗がん剤だけに、今後どれだけ有効なのかがわからない。先行きが不透明な次の局面に入ったわけだ。ただ3カ月ごとのCT検査の結果によると、がん本体はほぼ不変な状況にある。がんが顕著に活動しているわけではなさそうだ。

 このように診断結果だけ見ると心配される兆候も現れだしたが、これまでの2年間、ほぼ健常者並みの元気さはそのまま持続している。QOL(生活の質)にも問題がなく、若干体が弱ってきたなと思うものの、毎日の生活を楽しんでいる。1月末、対がん協会の企画で1年ぶりに垣添先生と対談した時、先生から「文字どおり、がんと共存されていますよね」とのお墨付きをいただいた。当初目標とした「がんとの共存」が実現でき、がん患者としては満足している。

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石弘光

石弘光

石弘光(いし・ひろみつ)1937年東京に生まれ。一橋大学経済学部卒業。同大学院を経てその後、一橋大学及び放送大学の学長を務める。元政府税制会会長。現在、一橋大学名誉教授。専門は財政学、経済学博士。専門書以外として、『癌を追って』(中公新書ラクレ)、『末期がんでも元気に生きる』(ブックマン社)など

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