「睡眠は心身の健康や成長に大きな役割をはたす。睡眠時間と脳の発育には正の相関があり、時間が長いほど記憶をつかさどる海馬の体積が大きくなる。様々なホルモンが睡眠中に分泌され、体の機能を調整している。睡眠が十分でないと注意散漫になり、授業に集中できない。気分が抑うつ的になり、友達と良い関係を築けないといったことも起きやすくなる。成長過程にある子にとって、睡眠は大人よりも重要です」(駒田准教授)

 子どもが夜遅くまで起きている要因の一つはスマホだ。就寝前にスマホでゲームやネットをする子は朝起きるのがつらい。早稲田大学の柴田重信教授(時間栄養学)はこう話す。

「スマホやテレビのブルーライトは、眠りを誘発するメラトニンの分泌を抑制する。眠りにつく時間が遅くなり夜型になってしまう」

 テレビが居間にしかなかった時代には、親が子を注意しやすかった。今は子どもが自室の布団でスマホを見る時代。寝る前のスマホは控えるように、親子でしっかり話す必要がある。

 現役世代も高齢者も子どもも、年齢を問わず、睡眠負債を抱えるリスクがある。だが、社会はますます「夜型」になってきている。

 NHK放送文化研究所の国民生活時間調査によると、平日の1日の平均睡眠時間は、1960年には8時間を超え、9割超の人が夜11時までに就寝していた。ところが、2015年には、睡眠時間は7時間15分に減り、11時までに寝る人は4割に。

 24時間営業のコンビニが乱立し、スマホでいつでもネットにつながる。こうした社会環境の変容に伴い、夜に活動する人が増え、平均睡眠時間はこれからも減りそうだ。

 24時間稼働する社会は、実は多大な経済損失の上に成り立っている。

 世界的なシンクタンクである米ランド研究所が、睡眠不足による経済損失を調べた。「死亡率上昇による労働人口の減少」「仕事のパフォーマンス劣化による経営効率の低下」「若年期の学校成績不振による個人の能力開発の妨げ」などの視点から、米国、日本、ドイツ、英国、カナダの5カ国の実態をまとめた。

 日本の経済損失は、約9兆6800億~約15兆1800億円(1米ドル=110円で換算)と試算された。GDPの1.86~2.92%に達する巨額な損失だ。米国に次いで損失額が多く、5カ国の中でGDPに占める損失の割合は一番大きかった。

 国も対策に乗り出している。仕事を終えてから次に仕事を始めるまでに一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル制度」を広げようとしている。欧州連合(EU)では「11時間インターバル」をすでに義務化している。日本でも導入企業を2020年までに10%以上にする目標が「過労死防止大綱」に盛り込まれた。

 だが、厚労省によると、17年度時点の導入企業の割合は1.4%。10%以上の実現は簡単ではない。働き方改革といっても、人手不足の中で睡眠時間を削って働く人はあふれている。

 現代の新たな病理として注目される「睡眠負債」。夜更かししているあなたは、無自覚のまま、寿命を縮めているのかもしれない。

(本誌・岩下明日香)

週刊朝日 2018年7月6日号より抜粋