新曲の「旅立ちの朝」は“橋を渡り山を越えて今 俺よ もう一度起て”と自らを鼓舞する歌詞そのままに、雄大でドラマチックな展開だ。これまでになかった新味がある。

「いつもの顔で」「オレを生きる」の2曲は、宮本の感音難聴が治って間もないころ、精力的に曲作りに取り組んだ時期に書かれた。

 前者は、デモ音源CDに2タイプ収録されていて、そのひとつに「いつもの顔で 2013 demo ver.」とあるように、13年に書かれたものだが、歌詞は未完成のまま。本作で聴ける完成形での“とまることない とまるわけもない 風と空といつもの顔でグッバイ”という歌詞から、病が癒えた喜びや活動への意欲がうかがえる。

 後者の「オレを生きる」はヘヴィなサウンドがうねるスロー・ロック・ナンバー。“オレはオレを生きる”“オレは今日を生きる さらば昨日の夢”“どうやったってオレは「らしく」生きるしかねえ”と、ここでも自らに語りかけ、自身を奮い立たせる。生々しい歌いぶりだが、最後は囁くように歌い終え、余韻を残す。

 本作は、30年という年輪を刻んだエレカシのありのままの姿を映している。フロントに立つ宮本の存在が際立って見えることは言うまでもない。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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