役者の真木よう子さんは試写を観ながら、ずっと泣いていたという。それは、スタッフやキャストが一丸となって作品を作り上げたことへの感慨もあり、ワンシーンごとに交わしたさまざまなやり取りが、脳裏に蘇ったせいでもあった。
昭和45年、高度成長に浮かれる時代の片隅に生きる在日韓国人家族の歴史を生き生きと描き、2008年の演劇賞を総なめにした伝説の舞台「焼肉ドラゴン」。その映画化に当たり、舞台で脚本・演出を手がけた鄭義信(チョンウィシン)さんが、自らメガホンを取った。出演のオファーがあったとき、真木さんは、自分が演じる静花という役にまず興味を持った。
「静花は、3人姉妹の長女で、家族のために本当の気持ちを押し殺して生きています。自分の意思を貫こうとする次女の梨花のほうが、きっと私のイメージに近いんでしょうけれど(笑)、私は、イメージと遠い役でお話をいただけたのが嬉しかった」
現場で役を探っていくこと、模索していくことに、この上ない幸福を感じている。今回の映画では、丸1日かけて撮ったシーンを、翌日に監督から「撮り直したい」と言われたときに、真木さんが思わず監督に握手を求めたこともあったそう。