■遺伝性の腎臓病に効果的な薬が登場

 CKDの原因になる遺伝性の病気(国の指定難病)に「多発性嚢胞腎」がある。主に腎臓に嚢胞という水分がたまった小さな袋が無数にできる。

 日本の患者数は約3万1千人と推計されている。

 病気は進行性で嚢胞が増えたり、増大したりするため、70歳までに患者の約半数に透析などの腎代替療法が必要になる。

 この病気の進行を遅らせる薬として14年3月に保険適用となったのが内服薬の「トルバプタン」(商品名・サムスカ)だ。順天堂大学順天堂医院の泌尿器科教授の堀江重郎医師は言う。

「腎臓の機能の一つに尿を濃縮し、からだの水分を調節する働きがあります。この働きにかかわるバソプレシンというホルモンには細胞を増殖させる作用もあり、これが嚢胞を増大させることがわかっています。トルバプタンはバソプレシンの働きを抑えることにより、嚢胞の増大を防ぎます」

 また、トルバプタンには腎機能の低下を抑える働きも確認されているという。

「薬は軽症から重症まですべてのステージに有効です。3年間の追跡調査では薬の効果が持続することが確認されています。薬によって透析や腎移植までの期間が延びれば、患者さんは人生の活躍時期をアクティブに過ごせるようになる。治療薬ができたことで、子どもに病気のことを躊躇なく伝えられるようになる人も多いはずです」(堀江医師)

 トルバプタンの適応は腎臓の体積が750ミリリットル以上で、1年間に腎臓が増大した割合が5%以上の人だ。

 難病指定医療機関で病気の診断がつき、主治医から薬の適応と判断された場合に処方される。なお、服用すると尿量が増えるため、水分を十分に補給しないと脱水による高ナトリウム血症を起こす危険がある。こうした副作用の確認や服薬の方法を身につけるために導入時は入院することが決められている。

◯東京大学病院腎臓・内分泌内科教授
南学正臣医師

◯順天堂大学順天堂医院泌尿器科教授
堀江重郎医師

(文・狩生聖子)

週刊朝日 7月6日号